気がついたらこの部屋にいた。
多分夢だろう。就寝した記憶もしっかりとある。
目の前にはたくさんのモニターとスイッチ、随分とSFチックな夢だじゃないか。
モニターには部活の先輩が僕を、叱っているところが映っている。
これは一昨日のことだな。理不尽な内容だったのが思い出される。
そのモニターの下に赤いスイッチと緑のスイッチがある。
これを押すとどうなるのか? まぁ夢なのでとくにどうということはないだろう。
ということで緑のスイッチを押した。だって、赤いスイッチって自爆ボタンみたいじゃない?
モニターにモザイクが現れ、すぐに鮮明になる。モニターに映る先輩は先ほどまでとはうって変わり僕を褒めていた。
こりゃいい、本当にこうだったらよかったのに。
……目が覚める。
学校へ行き、部活へ行くと先輩が一昨日のことを言った。怒られるかと思ったが褒められていた。
どうやら過去が改ざんされているらしい。なんて便利なことだ。
これは神様がくれた、奇跡なのだろう。楽することに罪悪感はあるが、これはきっと特別に許されたことなのだ。
そんなことを思いながら眠るとまたあの部屋にいた。
モニターと赤と緑のスイッチが部屋にずらりと並んでいる。
もし辛い過去を変えることができるのならば、こんなに良いことはない、モニターを吟味する。
親に怒られたこと、物を無くしたこと、好きな娘に振られたこと、モニターに映る辛い過去を視たくないために、かたっぱしから緑のボタンを押して回った。
朝起きた。爽快な目覚めだ、今の僕は辛いことを何一つ経験していない、世界一幸せな僕なのだ。
朝食を前に、コーヒーを入れるのを失敗した。
登校中に道を間違えて迷った。
犬にかまれた。
友達に知らん顔をされた。
教科書の内容がわからなかった。
部活で一番下手くそになっていた。
混乱して、学校を飛びだし薬局で睡眠薬を買って、制服のままベッドに横になった。
モニターとスイッチの部屋に出る。
モニターに映る僕は上手くやっていた。
コーヒーをいれている僕が映るモニターの下の赤いボタンを押す。
モザイク後にモニターの映像が変わる。僕はドリップを失敗した。機械のボタンを間違えたからだ。
次のモニターを見ると僕は登校している。赤いボタンを押す。
僕は道に迷い、走りまわってなんとか学校へ登校していた。これで道を覚えたんだっけ。
次のモニターを見る。僕は犬に噛まれていた。そうだ、だからあの道は通らないように……。
僕は全部のモニターの赤いスイッチを押した。
目が覚める。普通に登校し、そして部活へ行くと、先輩に怒られたことをしないように気を付けて部活動に励み。
犬に噛まれないように土手を通って帰り、ご飯を食べて、宿題をして、お風呂へ入り、ベッドにはいる。
モニターの前に立って、今日起きた嫌なことがモニターに映る。緑のボタンに指を置くがすぐに離す。
すると、まるで泡沫がはじけるようにモニターは全てプツンと消えた。
その日以来、モニターとスイッチの部屋の夢をみることはなくなった。
あとがき
お題「罪悪感」「泡沫」
コメント一覧
即興ものです。日常を流したくなかったのでけにおさんと話し合って、ここに投稿しました。
茶屋さんこんばんは。読み終わってから「全ての過去が必要だった」と言う言葉が浮かびました。
消し去りたい過去が寄り集まって、今の自分があるんですね。
……モニターの中に「モニターの下のボタンを映す僕」が映ったら
その時に赤いボタンを押したら、どうなるんだろう(無限連鎖)
>ヒヒヒさん
こんばんわ、かんそうありがとうございます。消しさりたい経験って本当にたくさんあって、思い出すたびに悶える今日この頃ですが、必要なことだと思いたいものです。
無限連鎖に入ったら、いつかその虚しさに気付けますよ、人間はそうありたいもんです。
失敗をやり直せるのが、人間のいいところですね
睡眠薬を飲んでもスイッチの部屋にはいかなかった。とならないところが優しい世界って感じです。