鞄に猫を詰めた。
どこなら埋葬出来るだろうと考えながら靴を履く。
あの和毛にもう触れられないのだと思うと、腹の中に見えない拳を吞んだようだった。
海まで出て、浜昼顔の花畑の奥で、穴を掘った。陽射しも砂も眩しくて、汗をかいた。
お休み。そう最後に言って、墓穴を閉じた。
燦燦と降る圧の強い太陽のもと、ぼくは家路を急がなかった。後ろ髪をひかれる思いで、けれど墓を暴くことも出来ず、ただふらふらと、わざとよろけて歩いた。
次の猫、なんてことは考えるゆとりもなかった。
それくらいずっと一緒だったから。
家に帰ったら、あれだけ探しても見つけることのなかった、猫の髭が畳の上に落ちていた。
ぼくはようやくすこしだけ泣くことが出来て、ああだから、ぼくはきちんとあの子を悼んでやれているのだと、自分で信じることが出来た。
一年も過ぎたころだろうか。玄関の前に、仔猫が捨てられていた。
空気穴だけをかろうじて開けられた、市指定のごみ袋の中で、その子はまだ生きていた。
急いで手当をして、この子と暮らすことに決めた。
「お前、名前は何がいいかなあ」
膝の上で丸まってねむるほんのちいさな生き物は、ぼくに墓穴と浜昼顔を思い出させ、それが遠い記憶ではないこと、けれどもっと近くに別の存在がこれからいてくれることを痛感させた。
「よろしくね」
ちがう存在が同じちからを与えてくれることを、ぼくはたぶん、待っていた。