ボタン

  • 超短編 650文字
  • 日常
  • 2017年11月29日 21時台

  • 著者: 1: howame
  •  夕方いっしょに帰るカナさんに「ねぇボタン付けってする?」って聞いてみた。
    「うんするよ。でも最近ボタンのついたものはあまり着ないんだ」
    カナさんは目が悪い。全盲で光も感じられないはずだ。
    カナさんは立派だな。何でも一人でするし、仕事も努力して上を目指す人だ。
    頑固かと思いきや、人懐こくて聞き上手・・・
    だからカナさんとおしゃべりしながら帰るのは楽しい。

     今朝食卓の上に見慣れぬボタンが置いてあった。
    学生ボタンをおしゃれにしたような金属製の丸っこいボタン。
    「おふくろ、つけといて」と息子の太一が言う。
    太一の一張羅のカーディガンのものだった。

     休みの日に裁縫箱とボタンと、針と糸とそれに糸とおし。
    近視、乱視、老眼の身としては、糸とおしなくては、針仕事はできない。
    とれてしまったボタン付けはめんどくさい。
    カーディガンのほかにも夏用のパジャマ、半コート、上っ張りとほったからしのものをもってくる。
    深緑色の半コートとピンクっぽい和服をリメイクした上っ張りは亡き母の手作りだ。
    半コートはもう30年くらい前のものだけど、おばさん臭いデザインだったので、十分おばさんになるまで着なかった。母の葬式に行くときに黒の喪服の上にきたら何だか様になった。

     コートのボタンは裏打ちボタンまであったので、私には母のようにきれいにはつけられない。
    母は心をこめてボタンをつけ、この上っ張りのボタンホールを手縫いしたんだなと思うと、
    私は確かに母に愛されていたんだと実感できる。

     ボタン付けがおわった。ボタン付けはめんどくさいけど、できたらほっとした。

    【投稿者: 1: howame】

    Tweet・・・ツイッターに「読みました。」をする。

    コメント一覧 

    1. 1.

      1: 9: けにお21

      たしかに裁縫には、愛を感じます。

      縫ってるときは、愛する人への想いでいっぱいなのでしょうね。

      腕を通した時の様子を想像すると、幸福。

      最後の一文。何気ない、当たり前の感想だが、この一文で作品がリアルに感じられ、魂が宿ったような気がします。


    2. 2.

      1: howame

      けにお21さん、コメントありがとうございます。
      最後の一行だけどう書こうかなと立ち止まったところでした。ほめていただいてうれしいです。


    3. 3.

      1: 鉄工所

      半コート 懐かしい響き
      お袋が洋裁やってましたので
      すらっと読みました。
      最近良く見えないので、スマホのカメラを虫眼鏡がわりに使っています。
      裏打ちボタン最近は見ないですね。


    4. 4.

      1: howame

      鉄工所さんコメントありがとうございます。
      うわっぱりとかいっちょらとか母が使っていた言葉を自然と使っていました。
      母の持っていた裁縫箱の中にあった木の大きな糸巻き、形見に欲しかったなと今思っています。


    5. 5.

      20: なかまくら

      めんどうくさいことほど、大切な人のためにしかやらない、そういうものかな、と思います。自分の番が来たんだな、という、連綿と受け継がれていく営みをみた気がしました。


    6. 6.

      1: howame

      なかまくらさん コメントありがとうございます。
      母が私にやってくれたことを、不器用ながら私が息子のためにやる番になったんだと感じます。でも母は偉かったな、すごい働き者だったと思います。