十の物語

  • 超短編 2,000文字
  • ジョーク
  • 2017年09月09日 05時台

  • 著者: 矢凪
  • 1)河童の悩み

    T市の美容院にこのところ赤い河童がやって来るようになった。
    来るのは一匹ずつだけれども、どうやら何匹もいるらしい。
    まあ、来たのだし、支払金が木の葉に化けるでもなし、店の者達は構わないだろうと請け負いだした。

    あるときふと、訊ねてみた問いがあるのだという。
    「ねえ、なんで川や淵近くの理髪店じゃなくてうちのような美容院に来るの?」
    「理髪店ではなくて美容院に、の理由ですか」
    その日の河童は丁寧な話し方をする一匹だった。
    しかつめらしく呟いた後、彼は珍しく苦笑いを見せて続ける。
    「だって、いつも皿以外は散切り頭というのはつまらない。河童差別のようなものですよ」
    その日の希望は縦ロールだったそうだ。

    2)座敷わらしの憂鬱
    座敷わらしのいる家で有名な地区に、ひとり、然程名のない座敷わらしもいるとされている。
    人間味が強いためにその家では祀るというよりは同居人と捉えるそうだ。
    「いくら神扱いされたってさ、自然のものばかりじゃ飽きるよ。
    それじゃ座敷でなく、お外だっていいじゃない」
    そんなことを住人の夢に出て話した女の子は、ポテトチップスのコンソメ味とパクチー味を欲しがったという。

    3)山人の憤り
    「元からの村とうまく合わないから相談して何人かで抜け出し、
    旅人の中から希望者がいれば仲間に加えてきたのに、俺達の住まいは未だに村扱いしてもらえない。
    山人じゃない、村人になりたいなあ」

    4)オシラサマの奇想天外
    オシラサマを祀る家で夏休みに起きた話。
    遊びに来ていた孫が、宿題の絵を描くのに持ってきていた画材で、オシラサマを七色に塗ってしまった。
    なんとも派手な虹色に。
    勿論当主は驚愕し、孫を叱り、寺社関係を招いて謝罪の御祓を催した。
    歩き巫女と呼ばれる憑霊専門の者も招き、謝罪は届いたか、孫を赦していただきたい、と誠心誠意祈ったところ、
    巫女に憑いたオシラサマは孫になんら失点はない、とした上で至極残念そうに呟いたそうだ。
    「あの極彩色は嬉しかった。次には是非、金銀の色を纏ってみたかった……」
    だから、当主は今、とても困惑しているらしい。

    5)河童の悩み ver2
    T市界隈に何度も通う作家の話として伝わる。
    ある日の夕刻、人気の失せた河童淵で、河童捕獲証を首からさげ、胡瓜を餌に河童釣りに興じていた彼女の前に、
    じとっとした目で河童が水面から半分ほど顔を見せた。
    「胡瓜ばかりは止めてほしいです」
    たどたどしい訴えの後、切実なため息が淵に響いたという。
    「胡瓜って、河童にとっては人間にとっての大トロや霜降りみたいなものなんですよ!」
    折しも、夏休み中だったそうだ。

    6)マヨイガ(迷い家)の誤算
    「数年ぶりに財を人に分け与えようとして、道を山中に繋げたのです。
    家屋敷も美しく整え、山に立ち入る人の情報も手に入れ、道に外れない行いの善人を選びました。
    気合いを入れて贅を尽くした馳走も用意したというのに、あの方は私どもの屋敷に入ろうともしなかったのです」

    「見るからに文化財のような建物があったものの、インターホンがないし、監視カメラの最新型も回っていて。
    これは堅気の家ではないと立ち寄りませんでした」

    7)座敷わらしの憂鬱ver2
    座敷わらしを同居人として見ている家の主人は近頃、苦笑い半分、明るい笑み半分でT市の会合で話すそうだ。
    「どうやらパソコンや検索を覚えたようなんですよ。
    仕事から帰宅すると電源オンで、ショッピングサイトに繋がっている場合が多い。
    食べ散らかしもあって、座敷荒らしといえなくもない。注意すれば片しますが」
    唖然とする他の参加者を前に、彼は悠々と補足した、とも言われている。
    「基本的にゴスロリ閲覧が多いんですけれど、夏休みから後はコスプレも見ていますね。
    まあ、まだハロウィン向けのコスプレ商品のページだから可愛いものです」

    8)先祖からの願い
    川への精霊流しや、蒸した甘い風味の餅米に餡を乗せた郷土料理で有名な地域のある一家での話。
    去年、長生きした曾祖父が大往生した。好き嫌いのない人だったという。
    今年の盆休み前、次期当主にあたる長女の夢に、その曾祖父と、見覚えの無い時代的な人々が浮かんだ。
    皆、口々に、カレーとはなんだ、供え物にあげてみてはくれまいかと訴えたとされる。
    3日間その夢を見た彼女は現当主の母親と話し合い、ベジタブルカレーや鳥肉でのキーマカレーを餅米と共に供えた。
    「仏教との妥協点って、そこですよね」

    9)座敷わらしの憂鬱ver3
    「最近、遊びに来る他の地方の人達がね、子どもじゃなくって大人が増えているのよ。
    あーあ、私も大人になって、家じゃなくって人を守りたいわ」
    そう言いながら、座敷わらしは海老せんべいをぱりぱりとかじっていたそうだ。

    10)*****
    ところで、駄目なのよ、こういうので数をまとめてしまうのは。
    ほら、七不思議も7つ揃えるとまずいじゃない?
    だから、これはここまでよ。
    しきたりですから。

    -----------
    どっとはらい。

    【投稿者: 矢凪】

    あとがき

    いかにもそれらしく書いてありますが、これら全て創作です。万が一にも間違って参考資料などにはなさいませぬよう、よろしくご確認くださいませ。

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    コメント一覧 

    1. 1.

      1: 9: けにお21

      10ネタも一気に放出なされるとは、勿体ないような。豪華版ですね。

      僕は、「7)座敷わらしの憂鬱ver2」が好きでした。笑っちゃいました。


    2. 2.

      1: 3: ヒヒヒ

      河童の縦ロールw 笑ってしまいました。
      あと、6)も好きです。今時勝手に入る人はあまりいないでしょうねぇ……


    3. 3.

      20: なかまくら

      目録だけ読んでしまったような、もったいなさと贅沢さがありました。
      伝奇を現代の感覚で鋭く切り出していて、面白いです。