魔女の弟子入り 中

  • 超短編 1,394文字
  • シリーズ
  • 2017年05月09日 01時台

  • 著者: ミチャ寺
  • 私は、魔法使いに拾われた。

    * * *

    「それは駄目だリヒター。アクが強すぎる。薬草はもう少し色の明るいものを選ぶといい。」
    「セージ様、アクは魔法でとれないの?」
    「魔法もそこまで万能では無いさ。それに、使い過ぎは良くない。」
    私はリヒター。魔女狩りの騎士に追われて、一度死にかけた魔女。私は、魔法使いに拾われた。
    セージ様は、私を拾ってくれた魔法の師匠。この村で医者をしている。村人は魔法使いを受け入れ、共存する珍しい人達だ。
    拾われて早5年。村の人達とも顔馴染みになり、セージ様との距離も近づいたように思える。
    私はこの村が好きだ。初めて人に受け入れられて、大切にされて。
    「どうしたんだい?リヒター。」
    「あ、あの、セージ様。私、この村にいられて幸せです。」
    「そうか、それは良かった。私も、この村の者達も、その言葉を聞けて嬉しいよ。」
    セージ様は優しく私の頭をなでた。
    「さて、そろそろ昼食にしようか。」
    「わーい!私、作ります!」
    魔法の勉強で何度か魔法を使ったせいか、すでにお腹はペコペコだった。

    * * *

    「うん、おいしい。また腕を上げたね、リヒター。」
    「フフーン。お料理は大好きですからね。いつも練習してます。」
    本当は、お料理が好きだというわけではなかった。私はただ、セージ様に褒められたい一心で頑張っていた。
    「君はすごいね。たしかこの料理の作り方も、この前一度見せただけだろう?」
    「フフーン♪すごいでしょう?」
    一緒に食事する間は師弟というより、親子のようだと感じた。この時間が、一番好きだ。
    しかし、今日は少し様子がおかしかった。
    「……セージ様、どうしたんですか?」
    「うん?ああ。すまないね。少し考え事をしていただけだ。」
    一瞬だけ、セージ様の目の焦点が合っていないように見えた。
    普段はとても真っ直ぐとした瞳で、常に何かを見据えたような、芯の強い目をしている。私にはどうしても、その一瞬が気になった。
    私が心配そうな目を向けているのを見ていたセージ様は、少し躊躇した後、口を開いた。
    「……リヒター。君には必要なことはある程度教えたつもりだ。」
    「……セージ様?」
    「リヒター。君は強く、そして優しい子だ。そして感性の鋭い、賢い子だ。」
    「セージ様、どうしたんですか?何かあったんですか?」
    「リヒター。君には特別な力がある。魔法は万能ではない。だが君なら万能に限りなく近づける。」
    「あの、セージ様?」
    「リヒター。君には大切な出会いが待っている。君ならすぐにわかるはずだ。間違えることはない。」
    いきなり意味深なことばかりセージ様が言い始めたのが、私は怖かった。
    何か起こる。嫌なことが起こる。そう直感した。
    「……リヒター。君は聖なる光だ。師匠として誇らしく思う。
    リヒター、君なら絶対にできる。」
    セージ様がそう言い切った瞬間、遠くの方で大きな音がした。
    「セージ様!あの音ってもしかして……」
    「ああ、災害だ。行くぞリヒター。」
    火山が、噴火した。

    * * *

    不幸なことに、火砕流などは私たちを受け入れてくれていた人里に流れ込んだ。悲鳴が聞こえる。聞き慣れた声の悲鳴、それを聞くだけで心が張り裂けそうだった。
    「せ、セージ様!みんなが!」
    「……………。」
    セージ様は黙ってその場に膝をついた。そして祈りの姿勢をとる。
    「セージ様?もしかして、魔法で助けられるんですか?」
    「……私には、不可能だ。だから君に託す。」
    「えっ?」
    魔法の光が、私を包んだ。

    【投稿者: ミチャ寺】

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    コメント一覧 

    1. 1.

      1: 9: けにお21

      あっさり、弟子が師匠の魔力を超えた?❗️
      短編なので、テンポよくストーリー展開させないと収まらなく、そうなるのかな。

      主人公が成長していることを読者に伝えるには、修行の様子を見せるのが分かりやすいですね!

      師弟愛は美しい。


    2. 2.

      ミチャ寺

      けにおさん、コメントありがとうございます。
      一応しばらく修行した設定になってます(笑