魔女の弟子入り 上

  • 超短編 1,494文字
  • シリーズ
  • 2017年05月03日 01時台

  • 著者: ミチャ寺
  • 私は、魔法使いに拾われた。

    * * *

    私はどこへ向かって歩いているのだろう。真夜中だから、とても暗い。森だから、明かりも見えない。曇っているから、月も出ていない。フラフラと、あてもなく。
    歩けなくなった。地面が冷たい。ひんやりとした落ち葉が頬に当たって、どこか疲れも和らいでいった。

    * * *

    温かい。毛布のようなものに包まれている感覚。私はゆっくりと目を開けた。
    「目が覚めたかね?」
    男の人の声が聞こえる。落ち着いた、おじいさんの声。声の先には、長い白髪をまとめた初老の痩せた男がいた。
    「どこか痛いところは無いかな?体をひと通り動かしてみるといい。どこかに異常があったら治さなければ。」
    ぼんやりとした目で男性を見つめていると、男性はあわてて言葉を続けた。
    「も、もしかしてかなり遠くから来たのかね?参ったな……遠方の言語はあまり得意では無いのだが。」
    落ち着くためだろうか、傍らのコーヒーに手を伸ばしてひと口飲んだ。
    「おじい……さん……」
    「おお、良かった。とりあえず会話は出来そうだ。さて、なんだい?」
    「ここは……どこ……?」
    「ここは、私の家だ。研究所でもあるし、診療所でもあるかな。」
    少し見回すと、木組みの壁や天井が見えた。そして奥には暖炉がある。そこそこの広さだった。
    「ああ、そうだ。君の名前を聞かなければいけないね。お名前は何というのかな、お嬢さん。」
    「私……私は……リヒター……」
    「リヒター……『光』という意味か。良い名前だ。」
    男は私の名前を聞くと、立ち上がって近くのテーブルまで歩いて行った。そして何かのスープを皿に注ぎ始めた。
    「おじいさん……は……なんて……いうの……?」
    「私かい?私はセージ。この村で……まあ、特殊な医者をしている。」
    セージと名乗る初老の男は、職業について少し言い淀んだ。
    「寒かっただろう。君が村の外れにある森で倒れていたのを、村の人間が見つけて運んで来たんだ。」
    そしてセージはスープを持ってきて、私に差し出した。
    「これは薬膳料理のスープだ。飲みなさい。」
    言われるままにスープを飲むと、体の芯から徐々に体温を取り戻していくのを感じた。それだけじゃない。体の痛かったところも少しずつ、痛みが引いていった。
    「……魔法みたい…………。」
    セージはその言葉を聞いてあからさまに動揺した。
    「そ、そうだね。たしかにこの薬はまるで魔法のように効く。」
    「……おじいさん、魔法使いさんなの?」
    「……………………」
    もう言い逃れできないと感じたのか、セージはこっくりと頷いた。
    「……私と、おんなじだ。」
    「君も……魔法使い、なのか。……なるほど、合点がいった。」
    私は、魔女狩りから逃げてきたのだ。どこにいっても、魔女は不吉な存在とされていた。逃げて、逃げて、その先で、セージに出会った。
    「……ここに住むといい。この村の者たちは皆、古来より魔法使いと共存する者たちの末裔だ。」
    「魔女も……いて良いの?」
    「ああ、むしろ歓迎されるだろう。彼らは魔法使いが大好きなんだ。」

    * * *

    私は、セージに弟子入りした。セージは魔法について教えてくれる前に、私にある質問をした。
    「リヒター。君は今まで魔法を使ったことがあるかい?」
    「うん。1回だけ。」
    セージは少し何かを考える素振りをして、さらに質問をした。
    「そのとき、何か自分の身に変化はあったかな?」
    「……お腹が減った。」
    セージはそれを聞くと、目を丸くした。そして、クスリと笑った。
    「そうか、じゃあ魔法を使う前に食材を買いに行こう。」
    魔法を教わって、空腹を満たして、また魔法を教わって。笑って、たまに怒られて、でも温かくて。
    ずっと、ずっとこんな日が続くことを、私は願った。

    【投稿者: ミチャ寺】

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    コメント一覧 

    1. 1.

      ミチャ寺

      どうも、ミチャ寺です。
      魔女と子狐、番外編になります。
      ある程度温めてはいたのですがようやく投稿するに至りました。楽しんでいただけたら嬉しいです。


    2. 2.

      1: 9: けにお21

      楽しいすべり出し、次の展開が楽しみです!
      亀仙人のもとで修行する悟空な感じかな?


    3. 3.

      ミチャ寺

      けにおさん、コメントありがとうございます。
      そのうちリヒターもカメハメ波とか撃つようになるかもしれません(笑