夢老い人

  • 超短編 376文字
  • 同タイトル
  • 2017年04月21日 22時台

  • 著者:1: 3: ヒヒヒ
  • あなたに与えた箱は確かに
    開けた途端、
    あなたを老人に変えてしまう
    とても危険なものでしたが、
    まさか開けてしまうなんて、
    あなたが箱を開けないよう
    あれほど何度も言って聞かせ、
    蓋を貝よりも硬く閉じたのに、
    まさか開けてしまうなんて、
    こんなことなら
    あなたを水の上に帰すのではなかった
    と悔やんでももう遅い。
    けれど、あなたが故郷を語るときの声を聞いていたら、
    到底この寂しい水底にとどめ置くことなどできなくて、
    だけどあなたを帰すためには
    この城で過ごしたその時間ごと
    水の上に帰さなければならなくて、
    せめて困ることのないよう
    時間と老いを箱に閉じ込めておいたのに、
    まさか開けてしまうだなんて。
    いっそ私も水の上に出て
    あなたと一緒に綻びていければと思うのに
    亀が外に出してくれないので、
    そもそもお前がいじめられたのが悪いのだと言いながら
    亀の甲羅を叩いています。

    お慕わしいです、浦島様。

    【投稿者:1: 3: ヒヒヒ】

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    コメント一覧 

    1. 1.

      1: 9: けにお21

      ほお、恋愛で締めましたか。

      味わいのある語り作品ですね。

      そう言えば、女性から男性に対して愛情表現する際、お慕いする、と言う文句は、アサクラトウキさんも使っていました。なかなか奥ゆかしくて日本人ぽくて良いですね。ちなみに、僕は今まで言われたことはないけれど、死ぬまでに一度は言われたみたいな。

      乙ちゃんが、八つ当たりで亀の甲羅を叩いてるとこが、好きでした。


    2. 2.

      ミチャ寺

      浦島太郎に玉手箱が預けられた理由、それが上手く恋心に絡んでいて素敵でした。
      亀の甲羅が割れたような模様なのは、このとき叩かれすぎちゃったのかな?とか思ったりしました(笑


    3. 3.

      キノ

      ひーさんの文章は、女らしさがありますね。言葉のリズムに気を使っているのがわかります。いい。


    4. 4.

      3: 茶屋

      わーお、そうきたかそれでは私も

      想いは泡のように上に上に行くけれど
      海から出るとはじけて消えて
      いっそ私もその泡のように
      弾けて消えてしまえば
      貴方のものへといけるのに