あなたに与えた箱は確かに
開けた途端、
あなたを老人に変えてしまう
とても危険なものでしたが、
まさか開けてしまうなんて、
あなたが箱を開けないよう
あれほど何度も言って聞かせ、
蓋を貝よりも硬く閉じたのに、
まさか開けてしまうなんて、
こんなことなら
あなたを水の上に帰すのではなかった
と悔やんでももう遅い。
けれど、あなたが故郷を語るときの声を聞いていたら、
到底この寂しい水底にとどめ置くことなどできなくて、
だけどあなたを帰すためには
この城で過ごしたその時間ごと
水の上に帰さなければならなくて、
せめて困ることのないよう
時間と老いを箱に閉じ込めておいたのに、
まさか開けてしまうだなんて。
いっそ私も水の上に出て
あなたと一緒に綻びていければと思うのに
亀が外に出してくれないので、
そもそもお前がいじめられたのが悪いのだと言いながら
亀の甲羅を叩いています。
お慕わしいです、浦島様。
コメント一覧
ほお、恋愛で締めましたか。
味わいのある語り作品ですね。
そう言えば、女性から男性に対して愛情表現する際、お慕いする、と言う文句は、アサクラトウキさんも使っていました。なかなか奥ゆかしくて日本人ぽくて良いですね。ちなみに、僕は今まで言われたことはないけれど、死ぬまでに一度は言われたみたいな。
乙ちゃんが、八つ当たりで亀の甲羅を叩いてるとこが、好きでした。
浦島太郎に玉手箱が預けられた理由、それが上手く恋心に絡んでいて素敵でした。
亀の甲羅が割れたような模様なのは、このとき叩かれすぎちゃったのかな?とか思ったりしました(笑
ひーさんの文章は、女らしさがありますね。言葉のリズムに気を使っているのがわかります。いい。
わーお、そうきたかそれでは私も
想いは泡のように上に上に行くけれど
海から出るとはじけて消えて
いっそ私もその泡のように
弾けて消えてしまえば
貴方のものへといけるのに