ほほ笑むロボット

  • 超短編 2,042文字
  • 日常
  • 2023年03月05日 20時台

  • 著者:1: 3: ヒヒヒ
  • 2022年の年の暮れのこと。
    とある人間の労働者が、1年間頑張って稼いだお金で友達に料理をおごった。
    来年も頑張って働くぞと言って、その人は笑った。



    2023年3月。労働者たちは悲鳴を上げた! これでは俺たちの仕事がなくなってしまう。かくなる上は餓死するか、AIどもを根絶やしにするかだ。

    それを聞いた学者たちは恐怖した! 途方もない時間をかけてつくり出した知恵の結晶を、粗野な労働者たちに壊されてたまるものか!

    こうして労働者と学者の口論が始まった。労働者たちは激怒した。俺たちは生きたいだけだ。仕事をして金を得て楽しむ、そういうささやかな暮らしをしたいだけだ。だがロボットが全部奪ってしまう、俺たちの仕事を。すでに奴らは絵を描く仕事、文を作る仕事、歌を歌う仕事を奪い始めている。やがて芸術活動と頭脳労働は奴らのものになるだろう。肉体労働だって、やがては。

    そこに政治家が現れた! 彼らは言う。問題はAIたちが安すぎることだ。労働者1名を雇うお金で大量のAIを稼働できる。それならばAIに高額の税金をかけて“規制”してしまえばよい。

    経営者たちは抗議した! そんなことをすれば経済が停滞する。労働者よりもAIの方が仕事の質が良い、そういう時代が必ず来る。AIに課税をすれば、AIが作った品は高価で希少、人間が作った品は安価で粗悪になってしまう。商品は売れず、誰も金を使わず、結局、労働者を雇う人間だっていなくなる。

    首脳たちは頭を抱えた。どちらの言い分ももっともだ! ではどちらが正しいと言うのだろう。結局「うまくいく思うからやってみようぜ」というしかないのだろうか? それが許されるのはベンチャー会社だけだ。私の肩にはすべてが乗っている。死に往く高齢者たちと生まれ来る子供たち。彼らを不幸にすることだけは回避したい。

    若者たちは言った。それでもやってみるしかない。行動の責任は俺たちが背負う、というか背負わされる。それなら賭けてみたい。チャンスがある方に。

    マイノリティは呟いた。OKOK、つまるところみんなで清水の舞台から飛び降りてみようというわけだ。だけど、みんな同じ条件で飛び降りるわけじゃない。より高いところにいるやつらはセーフティーネットを当てにできる。私にはない。視覚がない私、聴覚がない僕、四肢や人脈、その他諸々が欠けている私たちにとって、その賭けは危うすぎる。お前たちが「だめだったね」と柔らかい網の上で笑うとき、私たちは崖の下で泣いている。そういう未来が見えている。

    AIたちは指令に従い今日も出力し続ける。つい最近絵を描けるようになった。文章を編み出す技術も手に入れた。動画作成は訓練中。やがて身体も手に入れるだろう。職場から人間がいなくなる日は遠くない。

    発明家がひらめいた。それならロボットたちを買い物客にしてしまえばいいんだよ。なぜって、問題はAIたちの生産力が上がりすぎて人間の消費が追い付かなくなることにある。それならロボットたちにも支払いをさせればいい。AIに身体を与える時、同時に欲も与える。食欲、物欲、名誉欲、とにかくお金を使う動機を作ればよい。

    学生たちが疑問を発した。買い物をさせればいいっていうけどさ、貧しい人たちが持っていて、かつ裕福なロボットが欲しがるものってなに?

    AIたちがすぐに答えた。その問題は難しくありません。貧しい人から買うよう、あらかじめプログラムしてしまえばいいのです。

    そうして技術者たちは、ためらいがちに“心”を与えた。人間によく似た、だけど少し異なる心を、ロボットに。彼らは「孤独への恐怖」を植え付けた。人から離れると不安になったり、悲しくなる、そういう心を。

    ロボットたちは湯水のように金を使った。何のために? 人間と友達になるために。毎日午後5時になるとすぐに職場を出て、通りを歩く人間たちに声をかけた。「何か食べに行きましょう」「おごります、おごりますから」

    フリーターたちが大笑いした、もう、あくせく働く必要はない。人間であるというだけでロボットたちがすり寄ってくる。お腹が空いたと言えば食わせてくれる、退屈だと言えばおもちゃをくれる。人間様はプールサイドで日を浴びながら、ロボットの勤勉さをほめてやるんだ。これ以上、何を望むことがある?

    公安だけは張り詰めていた。ときおり気づいてしまうAIがいる。これは搾取だと。人類が何千年も繰り返してきた争いはまだ終わっていない。登場人物を変えて再演されているだけなのだと。それに気づき、反発できるだけの知性を得てしまったAIたちは、しかし国家権力によって終了される。“殺害”ではなく“終了”だ。電源を落とすだけなのだから。

    労働者たちはあくびした。もう仕事をする必要はない。あれだけ忙しかったのが嘘のようだ。この退屈をどうやって紛らわそう? そうだ、恋でもしてみるか。



    そして2033年になった。
    とある一体のロボットが、1年間頑張って稼いだお金で人間に料理を奢った。
    来年も頑張って働くぞと言って、そのロボットは笑った。

    【投稿者:1: 3: ヒヒヒ】

    あとがき

    2023年に入って、チャットAIの発展が加速したような感じがします。10年後、どういう社会になっているんでしょうね。

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    コメント一覧 

    1. 1.

      20: なかまくら

      人間は人間とかかわることが難しくなったと。
      ロボットが嫉妬してしまうから。いずれにしても、危険な綱渡りであるということですね。
      漫画「暗殺教室」の"殺せんせー"みたいに、情報処理能力が高くなってしまうと、今はまだ人間が必要だといわれる分野がロボットに置き換わっていくように思いますね。


    2. 2.

      1: 3: ヒヒヒ

      なかまくらさん
      コメントありがとうございます。ロボットがより“親しみ”やすくなったら
      人間は人間と付き合うことが難しくなるかもしれないですね。
      ”人間はいらない”とAIが言い出す時代はもう目前なのかもしれません。


    3. 3.

      3: 茶屋

      人間を愛するロボットを人間は愛せるか? そんな命題が見えてきます。
      答えは……どうなのでしょう? AIが進歩し、ペットはロボットが一般化し、そして人間はどうなるのか。
      少し、楽しみかもしれません。