西暦2019年、地球は死の星と化した。
以前は多種多様の生物が共存する地球であったが、人間という知的生物が生まれてからわずか数千年で、地球は生物が住めない星に変わった。
直接的な原因としては西暦2016年の終わりにまで遡る。新年を祝うために音楽隊を乗せた軍用機が地上からの砲撃で撃ち落とされ、それに激怒した軍用機の所有国の大統領が、世界を第四次世界大戦へと導いた。
やられたらやり返す。西暦2017年、地球は戦国時代となり、世界各国では花火でも打ち上げるように核爆弾を乱発した。山は焼かれ、都市は廃墟となり、海に浮遊する氷山は溶かされ、多くの地上は水没し、地球を覆うオゾン層は破壊された。
結果、2019年には地球は人間のみならず、他の生物も生きられない星になった。
他の生物からすると、いい迷惑である。
人間の愚かさについてはさておき、西暦2万年が過ぎようとした時、地球にもやっと草や木が生えるようになった。プランクトンなどの微生物も泳ぎ出すまでに浄化された。
西暦2万8000年ほど経った頃には、地球に人並みの知能を備えた知的生物が現れた。
それがマッシュルームである。
今回番組でお話しするのは、そのマッシュルームで、ここからは「ことバンクさん」がナレーターとしてお送りする。
場面がスタジオに変わり、金ぴか衣装の「ことバンク」さんが踊りながら登場。
「あいはーぶあ『お八』、あいはーぶあ『秋色』、あん『真夏の雪』。」
ことバンクさんはユーチューブに載せたこのギャグ動画で一躍有名人になり、この不機嫌な時代にとてもビスケットな芸人で、今やバラエティーやCMに引っ張り蛸なのだ。
テレビ画面には新生マッシュルームが大きく映し出された。
ことバンクさんの解説が始まる。先ほどのギャグ違い真面目な声色。
「このように新生マッシュルームは白くて丸くて小さく、基本的には人間がいた頃のマッシュルームと変わりません。しかし以前のマッシュルームと違うのは、目があり、口があり、鼻も、手足もあることです。ただ手足はひょろ長です。さてこの新生マッシュルームたちは、どこからどのように生まれるのでしょうか? ちょっと観てみましょう。」
場面は春の夜の公園に変わり、夜桜が立ち並んでいる。
そして、一本の桜の根本がクローズアップされる。
「いたいた。可愛らしい赤ちゃんマッシュルームがいましたよ。」
桜の根本付近の土の上に、マッシュルームの白い頭がちょこんと覗いています。
「野生のマッシュルームは桜の木の周辺に生えます。そして、夜に月光に照らされた時、土からスポンと飛び出るのです。それがマッシュルームの誕生です。」
スポン
『おぎゃあおぎゃあ』
「ちょうど、元気なマッシュルーム赤ちゃんが生まれました。なんとも愛くるしいお顔をしています。このマッシュルームは女の子でしょうか?」
キラン
「その時、生まれたての赤ちゃんマッシュルームを鋭く見ている動物がいました。」
画面に、遠くの木の枝が映し出され、鳥が止まっているのが分かる。
「これは、鳥科の「かっこう」です。かっこうは赤ちゃんマッシュルームが大好物なのです。
人並みの知能を持ったマッシュルームと言えども、生まれたての赤ちゃんマッシュルームは無防備であり、かっこうのかっこうの獲物になってしまいます。
大変危険な状況です。赤ちゃんマッシュルームはまだ歩けず、外敵に攻撃されてもかわすことができません。」
ビュウウ
遠く木の枝の上いたかっこうが、生まれたての柔らかそうなマッシュルームに狙いを定め、目がけて急降下しました。
「あ、危ない!」
その時・・桜の木陰から、煌めきが一閃。
バキューン
そして破裂音と共に、かっこうは崩れ落ちました。
「かっこうは死んでいるようです。しかし、かっこうの身に何が起きたのでしょう?そして今の煌めきは何だったのでしょうか?あれあれ、何かいるようですよ。」
死体となったかっこうの横に、どこから現れたのか艶っぽいマッシュルームが立っています。
そして、その妖艶なマッシュルームは赤ちゃんマッシュルームを抱き上げました。
「あ、やっぱりいました。このマッシュルームです、かっこうを倒したのは。これが峰不二子マッシュルームで、別名、小悪魔マッシュルームと言います。この不二子マッシュルームがかっこうを一瞬で倒し、赤ちゃんマッシュルームを守ったのです。」
「視聴者の皆さんには一瞬のことで、何が起こったのかお判りにならないでしょう。それをスローモーションで観てみましょう。」
場面はかっこうが赤ちゃんマッシュルームを襲う場面にまで巻き戻される。
桜の木陰から不二子マッシュが、強靭な足腰で地を蹴り上げ急降下するかっこう目がけて飛んで行く。
「これが煌めきの正体です。一瞬の早業で目にも止まらず、光の線に見えたのです。」
不二子マッシュは空中で頬をピンクに塗り、目にはばっさばさの付けまつ毛を、唇に口紅を塗り付け、髪をドライヤーとブラシで巻き、体中に香水を振りかけた。
「抜かりありません。さすが不二子マッシュ。そして、よく見てください、カラーコンタクトも装着しているようです。完璧な小悪魔マッシュです。」
不二子はさらに、空中で露出の高い衣装に着替えると、かっこうの耳元に忍び寄った。
その瞬間、バキューン、と破裂音がする。
かっこうは崩れ落ちる。
「不二子マッシュがかっこうに何か囁いたようですが、これが決め手になったようです。仕込んだ高音声マイクで不二子マッシュの囁きを聞いてみましょう。」
不二子マッシュ
『わかってるでしょ?わたしの価値、試してみる?』
「もう視聴者の皆さんにもお判りでしょう。このような卑劣な小悪魔技を掛けられたら、無垢なかっこうは一溜りもありません。かっこうのハートはバキューンと撃ち抜かれた訳です。バキューンはその音でした。かっこうは耳元で囁かれた瞬間に即死です。ここで一旦CM入ります。」
コメント一覧
これを残してもなあ、と思うが、まあ僕らしい気がする。
書いてて、途中で飽きてきたのが思い出。