最後かもしれない

  • 超短編 816文字
  • 日常
  • 2022年05月10日 11時台

  • 著者: ほわみ
  •  この間眼鏡をかけた男の人が自転車を走らせているのを見た。
    あれはきっと隣の田中さんのご主人だなと、節子は思った。
    田中さんのご主人はなんか神経質そうで、近寄りがたい。挨拶する間もなく、すぐ通り過ぎて行った。

     しばらくして、節子が掃除当番の道具を持っていくと、田中さんの奥さんの良美さんは、今ご主人は入院して一か月になるけど、
    難病で余命一か月だと言われているという・・・
    良美さんは61才くらいだし、ご主人はきっと69才くらいだ。入院前日まで働いていたという。
    具合が悪くなったとき、「タクシーは使わない。コロナだったら運転手さんに迷惑がかかる」と言って、自転車で行ったという。節子が見かけたのはその時だったのだろうか?

     一人息子の衛くんがよく帰ってきているようだし、良美さんも息子の家族がよく来るので、元気そうに見えた。隣といえども、静かに暮らしていれば中はうかがうこともできかねる。
     気にかかりつつも1か月が過ぎたころ、節子が訪ねると、田中さんのご主人は医師の見立て通り、ちょうど一か月で死んだと良美さんは言う。
    死んだことを告知せず、身内だけで葬式もすませたと良美さんはつづけた。節子より若いとはいえ、良美さんの頭髪には白髪が一筋ひかった。

     庭の植木がのびてきた。30年ほど前に田中さんから紹介された庭師さんは、良心的で丁寧だ。
    初めてやってもらったときは40代の働き盛りだったけど、今度会ったらもう80代に近いのでは、と見えた。
     目が小さくなった、というのが今回受けた印象だ。歩き方も上半身が先に行き、脚がついていくような感じ、脚立を上るときも脚を踏みしめるように上っていく。
     人気の植木屋さんだが、節子のうちがまた頼もうとするときは、もういないかもしれない。
    時は流れて、人は老いていく。
     きれいにしてくれたことに感謝し、庭師さんを見送りながら、これが最後かもしれないと節子は思
    った。
    みんな、いつもこれが最後だよとは言わずに、突然去っていくものだから。

    【投稿者: ほわみ】

    あとがき

    説明不足かと思い、少し書き直しました。またまた書き直しました。

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    コメント一覧 

    1. 1.

      20: なかまくら

      良美さんはどなたでしょう・・・?
      噂好きのご近所さん? でも、なんとなく直接話したことというよりも、噂話をしているご近所さん達の話を通りすがりに聞いている感じがする節子さんな気がするのは、田中さんのご主人さんと節子さんが重なって見える瞬間が読んでいる私の中にあったからなのかもしれません。


    2. 2.

      ほわみ

      知り合いの人が死んだのを知ったときって、あああの時が最後だったんだなと思うことってありませんか。私はいつもそんな思いにとらわれます。そんなモヤモヤをを書いてみました。
      コメントありがとうございます。なかまくらさん。


    3. 3.

      1: 9: けにお21

      確かに、「コレが最後だ」なんて言わないですね。

      しかし最近、街を歩くと、年寄りだらけ。医療が充実し、高齢化が進んでいる日本国では、日々、コレが最後の人を多く見る機会が多いことでしょうね。

      個人的意見として、死ぬことが不幸か、幸せか、実際のところよく分からないので、コレが最後を見て、ソレを悲しいやら寂しいやら、と感じるべきか?も実のところ謎ではありますが。

      また、小説やら、絵画やら、創作物と言うものは、後世に残る生きた証になるはずで、とても良い物だと思います。


    4. 4.

      20: なかまくら

      一度書いたものを少しずつ直していくのって素敵ですね。
      庭師のおじいさんに対する節子の見て取った様子が鮮明になった気がします。
      >田中さんの奥さんは今ご主人は入院して一か月になるけど、難病で余命一か月だと言われているという・・・
      が、まだちょっと分かりにくいかな、と思います。


    5. 5.

      ほわみ

      けにおさん。なかまくらさんコメントありがとうございます。
      独りよがりな文章で分かりにくいと思いまた書き直してみました。
      文章は下手だ。でも時々書きたい私であります。