コロナ禍で出会った青い鳥【BEGiNNiNG】

  • 超短編 2,197文字
  • 日常
  • 2021年09月01日 20時台

  • 著者: 3: 寄り道
  •  僕たちにとってコロナは青い鳥だった。
     
     コロナの影響で、僕がバイトしているファミレスは営業時間短縮され、それにより勤務する従業員の数も減少。辞めさせられはしないものの、夜勤がなくなり、半分以上のシフトが減らされ、ここのバイト一本で生活していた僕にとっては死活問題だった。
     田舎に住む実家に電話をして仕送りをしてもらう日々。親からは「帰って来たら?」と言われるが、このコロナのせいでどこも働き口はないだろうし、帰ったところでやりたいこよもないため、田舎が嫌で出て来た僕にとっては都会にいる方がマシだった。
     都会に憧れて出て来ただけ。夢なんて何もなかった。夢なんて……
     バイトの準備の用意していると“ガタ”っと、物音がして目を配った。
     何かのはずみで、ベッドの横に立てかけてあった、アコースティックギターのケースが倒れた音だった。
     次の休み久々に弾こうかな、そんな事を思いながらTwitterを開き『バイトに行って来ます!!』と “廻り道” が呟いて家を出た。

     その日は目覚めた瞬間、いつも通りスマホで時刻を確かめ、そのままTwitterを開き『おはよう!今日から四連休の始まりだー!』と呟いた。
     緊急事態宣言が発令されてから連休が多くなり、久々の連休という訳でもないし、貯金もそんなにないから出来ることなら働きたかった。空元気なツイートであった。
     日雇いでなんかいいところないかなあ、なんて思いながらも次に呟いたのが『久々にギター弾く^ ^』だった。
     立てかけてあったギターケースを撮り、張り付けて、ツイートした。
     
     ギターに興味を持ち始めたのが中学一年のときで、音楽番組を見ていたときだった。
     その当時好きだったアイドルが出演するから観ていたが、共演していた一人のシンガーソングライターに目を惹いた。
     歌詞といいギター一本で奏でるメロディーが、当時の僕の心に突き刺さった。
    「かっこいい!」
     次の日、レンタルショップに足を運び、そのシンガーソングライターのCDを全てレンタルした。
     それまではアイドルを聴きながら通学していたが、そのシンガーソングライターに切り替え、次第に僕もこんな風になりたいと思うようになり、中一の七月の誕生日にそのシンガーと同じGibson Doveを買ってもらった。
     弾き方なんて分からない。弦を弾けば音は出るが、この六弦をどのようにすれば綺麗な音色を奏でられるのか、さっぱりだった。
     親はギターなんて弾けないし、ましてや弾ける友達もいなかったため、帰って来るなり宿題そっちのけで、鉛筆を持つ時間よりもギターを鳴らしている時間の方が多いくらいに、ギターを購入した楽器屋で勧められたギターレッスン本のDVDを観ながら、分からない用語はパソコンで調べ、YouTubeなど色々と駆使しながら練習に明け暮れた。
     憧れたシンガーソングライターは爪で弾いていたため、ピックではなく爪で弾いて、そのせいか爪が割れ血が滲み、割れた爪を庇うように指の腹で弾くと同じように裂け、指が絆創膏だらけとなった。
     痛いけど、綺麗な音色を奏でられた時の喜びの方が勝るため、弾くのを止めようとは思わなかった。
     爪割れ防止のため接着剤を塗り、何度も裂ける指先の皮膚は硬くなり、ぼろぼろの指が少しでも長くなるようにと、学校やギターを触れない暇な時間は指を常に引っ張ていた。
     ギターを与えたことにより成績が落ちたのでは、ギター取り上げられる可能性もあるため、テスト期間中は勉強したが、常に優先はギターだった。
     そんな生活を続け春になり、漸く、憧れのシンガーソングライターの一番好きな曲をフルで滞りなく弾けるようになった。
     友達と遊んでいるときに「弾いてみてよ」といわれ弾き語りしてみだが「自分で作ったの?」と訊かれ「そんなわけなじゃん」と言って笑った。
     ギターを始めて一年が過ぎ友達から冗談半分で、文化祭に出てみたら? と持ち掛けられ、僕自身その提案に「面白そう!」と思った。だが一人で出るのは恥ずかしく、なんでもいいから楽器を弾ける人を募集し、ピアノを弾けるクラスメイトの女子生徒と、ドラムを叩ける隣のクラスの男子生徒、それから吹奏楽部からサックスとバイオリンの演奏者の五人で文化祭に出た。
     実家を出る際にも、毎日ギターを弾くんだ、と思っていたが、段々と弾かなくなっていき、僕のベッドの隣で眠っている時間が多くなった。

     久々にギターを弾き、少しだけジンジンと痛む親指の爪を人差し指で押しながらTwitterを開くと、コメントが入っていた 。
    ≪また動画載せないんですか?≫
    東京に越してきてから暇さえあればカヴァー曲で動画を載せていたが、ここんとこぱたりと動画を載せなくなり、その様なコメントが届いたのだろう。
    『久々に上げようかな』
     四連休もあるし毎日だらだら過ごすよりも、いい気分転換になるだろうと思いそんなことを呟いた。
     そして四連休の三日目、久々にカヴァー曲を載せた。
    フォロワーも三百人くらいしかいないため、いいねの数も少なかったが、貰えると嬉しい。
    そしてまたまた動画を載せるきかっけをくれアカウントからコメントが届いた。
    ≪歌声、やっぱり素敵ですね!!≫
    『ありがとうございます。これを機に、また色々と載せようかなあ笑』
    ≪ぜひ聞きたいです。願わくば、オリジナルなんかも!!≫
    『オリジナルなんて無理ですよ』と断りつつも、なんかいいあ、と思い、そのツイートのハートマークをタップした。

    【投稿者: 3: 寄り道】

    あとがき

     まず初めに、連投申し訳ございません。
     ここに載せるべきかどうか悩んだのですが、前回載せた超短編小説が、コロナで苦しめられる世界を描いたため、今回はコロナ禍でも、必ず素晴らしい出会いがあると思い、書いてみたら、超短編小説ではない長さになってしまいました。
     時間があるときにでも読んで頂けたのなら、幸いです。
     意見や感想、お待ちしております。

    Tweet・・・ツイッターに「読みました。」をする。

    コメント一覧 

    1. 1.

      20: なかまくら

      コロナの中で、夢のある物語が始まりそうな予感がしますね。
      できれば、次回からはシリーズの欄に投稿していただければと思います。
      そちらは連投OKにしていますので!