とある街に、自らの死を願う少年がいた。
少年の名前は琥珀。
居場所がどこにも見つからず、また期待しては裏切られる日々を過ごす。
少年は、ただ死にたいけどよく分からないから生きていた。
鼻腔を冷たい風が満たす、寒い日の放課後だった。
僕はいつも通り独りでそそくさと帰ろうとしていた。
終礼が終わっても、居残っては駄弁っている奴らを尻目に、「これが絶対琥珀に似合う」とお母さんが勧めて買ってくれた黄土色のリュックを肩にかける。
奴らから逃げる様に、僕は無様な気持ちを抱えて教室を出た。
少し早歩きで、廊下を歩いていると。
パタパタと自分に迫る足音が聞こえてくる。
「逃げろ」という警笛が頭の中に鳴り響く。
僕は其の警笛を抱えながら、平静を装って平然と歩いた。
迫る足音、女子だろうか。
わからないけど、どちらでもいいから早く過ぎ去って欲しい。
足を緩めると、足音は僕の後ろに追い付くと突然音を消した。
緊張感はピークに達する。
「ねぇ。」
・・・僕に声をかけているんじゃないよな。
けどこの声って。彩葉さんか。
・・・。
彩葉さんも奴らに唆されて、自分を虐める側に加担してしまったのか。
構わず歩き続けようとする、僕の後ろをぴったりとついてくる。
埒が明かないと思って、昇降口まで来て自分の靴を取るがてら久しぶりに口を開いた。
「僕に何か用かな。」
彩葉さんは、僕の顔を真っ直ぐ見つめていた。表情に浮かんでいるのは、不安とか同情、そんな感じだ。・・・まぁ、僕惨めだよな。
「用がないなら、ごめん。先に帰るね。」
靴の中に何も入っていないことを確認すると溜息を一つ吐いて、かがんで靴を履いた。
彩葉さんは、立ち止まったままだった。
もしかしたら、奴らに脅されているのかも知れない。
「僕に何か言ってこいって言われたりした?」
彩葉さんは、今にも泣き出しそうな顔で答える。
「ううん。」
「もし、誰かに脅されてるなら話聞くよ。」
「ううん。違うの」
ならどうして。踵を返して、僕は帰ろうとした。
「ごめん。」
なにが。
僕には訳がわからず、彼女に背を向けたまま帰った。
どんな顔していて、どんな意味で言っているのか僕は家の直前まで考えたが分らなかった。彩葉さんに対しての対応はあれでよかったんだろうか。
彩葉さんは、これまで僕の虐めに加担している様子は一度もなかった。
彩葉さんはいつも凛とした表情で、クラスの喧騒に紛れず淡々と読書している姿は綺麗だったし強く見えていた。そんな憧れだった彩葉さんに火の粉がふりかかろうとしているのなら、それは由々しき事態だな。
今度はいつ話せるか分らないけど、もし今度話せる機会があったらきちんと話してみよう。僕が関係すると余計こじらせてしまうことになるかもしれないけど。
・・・。
「ただいま。」
家に帰ると、鬼の様な形相でお母さんが待っていた。
部屋に戻って荷を下ろす間も無く、お母さんは何かを諦める様に口を開いた。
「今日貴方の部屋に行きました。食べたものは、散らかしっぱなし。学校でもらったプリントも、ぐしゃぐしゃになって部屋に転がってる。テスト・・・っふ。あんた、たかが漢字のテストで12点って。笑えたわ。」
笑顔一つなく、淡々とお母さんは続ける。
「何か私に言わなきゃいけないことがあるんじゃない?」
言いたいことなら沢山ある。
虐められていること。学校を休みたいこと。こんな自分で申し訳がないこと。もう生きることをやめてしまいたいこと。
僕の頭は真っ白になって、お母さんの質問に対する返答が遅れる。
「ごめんなさいだろうが!!!」
お母さんは怒鳴ると、胸ぐらを掴む勢いで迫った。
「ご、ご、ごめんなさい。」
何を謝っているのか、僕には分らなくて全てを諦めた様に僕は謝罪を連呼した。
「変わらないと、あんた人生終わるよ。」
(ううん、僕の人生は、既に終わっているんだ。)
部屋に戻ると、部屋を出た時より一層散らかっていた。あらゆる引き出しが引出され、ストレスが溜まってノートに殴り書いた落書きや、衝動のあまり壊してしまったフィギュア、見られたくなかった其れ等全てが露わになっていた。
様々な感情が、内から体を食い破る様に暴れ回った。
このままいっそ頭を壊してやりたい。
一刻も早く死にたい。
散らかったモノを一つ一つ片付けながら、僕は死ぬ覚悟を固めていた。
あとがき
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