ニートの凱旋

  • 超短編 1,583文字
  • 日常
  • 2020年10月16日 17時台

  • 著者: 1: ごどり

  • 僕が目を覚ますのは、だいたい10時過ぎ。
    居間から母と父が出勤により居なくなった時間帯に起き上がる。
    胸には安堵と罪悪感がモヤつく。
    「さって。」
    誰も居ない独りの空間、寂しさを紛らわすためか僕は時々独り言を話す様になった。
    「さって、・・・ネトゲすっか。」
    パソコンを起動させ、最近流行のMMORPG ”STARS” をクリックする。
    ロードが始まったのを確認すると、タバコに火を付ける。
    「ふぅーーー」
    ディスプレイに吹きかける様に煙を吐く。
    胸騒ぎから目を背ける様に、僕はゲームに没頭する。
    デイリークエストを熟し現在開催中のイベント限定クエストを熟し始める。
    ・・・。
    ふと、気がつくともう5時間もやっていたらしい。
    ソロプレイがメインなのは、マルチでやっても効率が悪くまた他人のプレイにイライラしてしまう事があるからだ。
    自分でも心に余裕がなくなっているとは自覚している。
    偶にネットの友人に誘われてマルチプレイを行うが、その時イライラを表に出さずにいられるだけ僕はまだマシな方かもしれないと思っている。
    ネットの友人といえど、地理の離れた見ず知らずの人間だ。
    温もりも感じなければ、居場所という感覚とも遠い、「いつかは離れる人」という感覚だ。
    ぼーっとしていると、腹が減ってきた。
    (料理でもするか。)
    「っし!料理を始めませう!!」
    無理やり自分を鼓舞し、キッチンへと重たい足を運ぶ。
    額には脂汗がじっとりと滲み、髪はボサボサ。こんな自分を振り返るだけで悶絶しそうになる。
    (・・・ラーメンでいいか。)
    冷蔵庫から白ネギと玉ねぎとチャーシューを取り出す。
    料理は得意な方だし、料理は楽しかった。
    白ネギ、たまねぎとテンポよく刻み、たまねぎとチャーシューをさっと炒めて火を止める。
    鍋にお湯を沸かせて、麺を入れる。今日は醤油ラーメン。
    頃合いを見計らって、たまねぎとチャーシューを投下する。
    最後に白ネギをトッピングすればラーメンの完成だ。
    美味しいはず、見た目も綺麗なはずのきちんとしたラーメンなのに心の虚しさは埋まらない。
    「おいしい!」
    無理やり声に出して楽しさを演出してみたけど、虚しいだけだった。
    ずるずるとラーメンをすすりながら、ネットサーフィンをする。芸能人の不倫だとか、最近流行のウイルスがなんだとか、政治家の汚職だとかそんなニュースばかり。
    Youtubeで、品こそ良くないが面白そうなことをしている連中の動画を見る。面白くないものの、簡単に時間はつぶれる。

    ラーメンを食べ終わると、すぐさまタバコに火を付けた。
    「ふぅー」
    ふと、去年のことを思い出す。まだ僕に彼女が居て、務めていた頃。
    凛音の代わりなんてどこにもいないけれど、僕は彼女が欲しくなる。
    一緒にいるだけで心が休まり、心が強く保てるそんな存在。
    (彼女が欲しい。)
    でも、付き合う為にもまずは職を身につけないといけない。
    けれど、僕には働きたい場所が見つからない。

    僕の頭は袋小路になっていた。
    可能性を歓迎する心の広さもなければ、可能性へ飛び込む勇気さえない。
    僕が至らないことはわかっている、けれど、現状生活できているという事実から慢心が生まれて堕落させるのだ。

    こんな自分でも手を差し伸べてくれる誰かを求めている自らの弱い気持ちが浮き彫りとなっている事が分かり、辟易とする。
    去年、彼女が求めた僕はこんな自分ではないはずだ。
    両親がこんなになっても尚何も言わないのは僕なら大丈夫とまだ期待しているからだ。

    だから、動き出さねばならない。全てを知りながら、僕は何もできないのであれば猪突猛進する馬鹿の方がよっぽど素晴らしい。

    動き出すには、周りの人とよく話し合ったりする事が大切だとは思うけれど僕は今とりあえず生きられているから、必死に生きて人に会ってみよう。

    毎日コツコツ重ねていけば、きっとできる様になる。

    僕は、その日ハロワへ行った。

    めちゃくちゃ疲れたのは言うまでもない。



    【投稿者: 1: ごどり】

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    コメント一覧 

    1. 1.

      20: なかまくら

      >両親がこんなになっても尚何も言わないのは僕なら大丈夫とまだ期待しているからだ。
      周囲の期待に応えようとして、ちょっとだけ変わってみる・・・。
      展開に無理のない成長を一緒に体験できて、良い読後感でした。


    2. 2.

      1: ごどり

      >>なかまくらさん
      コメントありがとうございます。
      有り難き感想、ありがとうございます。
      此れからも精進してまいります。