星が知る  #fin

  • 超短編 1,773文字
  • 日常
  • 2020年10月27日 23時台

  • 著者: 1: ごどり

  •  とある街では、今日も多くの少年少女が迷っては複雑な気持ちを抱える。
    彼らの行末は、どこの誰にも分かり切る事はできない。
    また、彼らの歩く歩道から石を取り除く努力も、凡ゆる可能性から紡ぎ出された未踏の道には通用しない。
    神話を否定しながら、狂った様に神話を唱え続ける我々は、其の無知さが故に救われない子供がたくさんいる。
    闇に染まった街を、諦めながら歩く少年がいた。
    少年の名は、琥珀。
    以前、彼の抱いていた将来の夢は”自分の家の様な明るい家庭を育む事”だった。
    しかし彼は、小学6年生の梅雨虐めに遭った。
    いつもと変わらぬ日々を過ごしていたはずの少年が体験したのは、痛烈な現実だった。
    昨日まで仲良く話していたはずの友人が、突然自分を見ては嘲笑しているのだ。
    靴の中には、「みんなあなたのことが嫌いです。早く死んでください。」と複数人の文字で書かれた手紙。
    彼は、夢であり何かの間違いであると思った。しかし、日を重ねるごとに現実はより濃くより暗く変色していった。
    昨日まで虐めていたものから急に遊びに誘われ、心が許されたのかと思えばシカトされ、教室へ戻ると机が倒れている。
    思い出の品々が全て壊され、ゴミ箱に入っている。自分の名札がぐしゃぐしゃに落書きされている。
    担任も私は何も知りませんという様に、いつも通り。
    両親へ一度、自分は虐められていると告白した際は「勘違いなんじゃない?」と諭された。
    ネットで調べるも、虐めは”虐められた側が悪い”とか、”誰も虐めは経験するもの”とかって風に書かれていて、この苦痛が一時的で収まるものかと頭を抱えた。それでも、もう一度仲直りできるのではないかと考え通い続けるも、期待は全て裏切られた。
    日に日に、少年は他人と言葉を交わすのを諦めた。
    言葉を交わして、心を伝えても誰も何もしてくれなかった。
    これまでの自分の人生は全て偽りだったのではないかと、思う様になった。
    何度諦めず通っても、結局は虐められて痛い思いをする。
    学校から配られたチャイルドラインへかけるも、どうして其れが起こり始めたのかとか意味がわからないことばかりを並べる。
    少年に救いは無かった。

     ザーザー。暫く歩いていると、琥珀は黒く染まった海の下に来ていた。

    「死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない!!!」
    「どうして僕が死ななきゃいけない??」
    「みんなが死ねばいいじゃん!!」
    「どうして、僕が、どうして」
    「ごめん、ごめん。」
    「死ぬからみんな許してよ。」
     堤防へ足を震わせながら登ると、忽ち恐怖が全心を覆った。
    「ああああああああああああああああああああああ。」
    「こんな世界、さよならだああああああああああああああああああああああああ。」

    「待って!」
    悲痛な叫びが、琥珀の鼓膜に鋭く刺さった。
    琥珀は音のする方へ振り返ると、其処には彩葉が立っていた。
    平静を取り繕おうと、琥珀は急いで涙を拭った。
    「ど、どうしたの。こんなところで。」
    彩葉は涙をぼろぼろとこぼしながら口を開いた。
    「聞こえてたよ。もう、我慢しなくていいんだよ。」

    「・・・今更なんだよ。これまで見て見ぬ振りしてきたくせに!」
    (違う、こんなことが言いたいわけじゃない)
    「ごめん、私、本当に分からなかったの!」
    「嘘だ!!!」
    「嘘じゃない!嘘なら、こんなに涙なんて流さないわよ!」
    「近よるな!!!」

     この時、琥珀の中には不可解な感情が渦巻いていた。
    彩葉は一歩ずつ涙を流しながら満面の笑顔で琥珀へと近づいた。

    「私がいるから。」
    「何だよ、それ。」
    「私じゃだめかな。・・・私じゃ琥珀が生きる理由にはなれないかな。」
    「・・・っぐ、あああああああああああああ。」

     泣き崩れた琥珀を、彩葉は堤防まで上がりそっと抱きしめた。

    「大丈夫、私がいるから。ごめん。気付いてあげられなくて。」
    「あああああああああああああああああ。」

     とある街の片隅では、きっといつもこんな不条理は起こっている。
    見て見ぬ振りをして、自らの安心安全という幻想を守るのは容易いだろう。
    ”きっと、誰かがやってくれる。” ”見るべきところが見るべきだ。”
    そんな大人の盲信が、少年少女から可能性を遠ざけている。
    どうして人は、人を人として見れないのだろう。
    ”皆辛いから”という不確実な言葉で逃げるな。
    歳を重ねるほど、他人との距離が広がる実質的な身分社会に私は疑問を提唱したい。

    「此処で満足か?」






    【投稿者: 1: ごどり】

    あとがき

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