サンタが与えたもの ~ Last season ~ 第三夜

  • 超短編 1,481文字
  • シリーズ
  • 2019年12月27日 12時台

  • 著者: 3: 寄り道
  •  黒井への恨みが大きく、中井の存在を忘れていた。
    「そう。そやつの命と交換ならできる。だけど、中井と君は無関係の人間だ」
    「無関係って」
    「無関係じゃろ。儂と君が出会うきっかけは、中井の事故で彼女さんが意識不明となったからではあるが、君が死んだのは黒井のせいであり、中井は関係ない。赤の他人じゃ」
     言われてみるとそうだった。ニュースで顔を見ただけで、会ったことはない。
    「中井の命と交換で生き返らせるということだな」
    「まあ、簡単な話そうなのだが、これが実に難しい」
    「何が?」
     簡単なのに難しい。訳が分からない。
    「交換することは容易い。だけど、無関係の人間と命を交換するということは、前代未聞じゃ。サンタクロースにおける掟にも記されてはいない。君らの世界でいうところの脱法じゃ。掟を破らないにしても、儂らの倫理に反することになりかねない」
    「だから、今回が最後なのね」
    「ああ。今から君を生き返らす。それと同時に、中井は死ぬ。しかし、君が生き返ったからといって、君が死んだ事実は変わらない。それは分かっておるな?」
    「……どういうこと?」
     また意味の分からぬことをサンタクロースは言う。
    「もし君が死んでいない状態に戻したとすると、黒井は君を殺していないということになる。殺していないのなら、黒井が死ぬ運命も変わってしまう。すると君が生き返ると、自動的に黒井も生き返ってしまう。それは分かるな」
     ややこしいがなんとなく理解する。サンタクロースの話は続く。
    「では彼女さんが事故に遭うまで戻したとしても、事故に遭う事実は変えられないから、終わりの見えないループ状態となる」栗栖はサンタクロースの話を静かに聞く。「もし、今の記憶を維持したまま事故に遭うまで戻したとしても、事故に遭う事実は変えられないから、彼女さんがいつどこで事故に遭うのか分からない。君自身、ずっと片時も離れず彼女さんの傍にはいられだろうし、片時も離れず傍にいたとしたら、君も事故に遭って、意識不明の重体となりうる。いつ意識を取り戻すのか分からないし、取り戻さないかもしれない。そうなったらもう、儂に願いをすることも、彼女と笑って過ごすことも無理じゃ」
     サンタクロースの話はややこしかったが、枡野の安全を保ったまま、栗栖を生き返られせる方法は、サンタクロースが最初に話した通り、栗栖の死んだ事実を残したまま生き返るしか方法はなかった。
    「分かったよ。俺は死んだままでいい。だから生き返られてくれ」
    「本当にいいんじゃな」
    「ああ」
     生き返ったとしても、死んだ事実は変わらない。だから、彼女の哀しみが消えるわけでもない。
     では、どうしたら哀しみを栗栖の手で癒すことができるのだろう。
     しかしそんな疑問は生き返ってから、いくらでも考えればいい。
    「では、儂の目を見ろ」言われるがまま、栗栖はじっと見つめる。「君はこの三年間、本当に大変だったと思う。じゃが、儂にとっては大変有意義な時間を過ごせた。生き返ったら大変なことの山済みだけど、頑張るんじゃぞ」
    「ありがとう。サンタ」
     程なくして、サンタクロースは大きく手を広げ、思い切り手を叩いた。
    「はい。生き返りました!」
     生き返った実感はしなかったが、近くの長椅子に手を置いてみる。確かに、手に長椅子の冷たさが伝わる。姿かたちは、全裸ではなく、亡くなる前の格好そのものだった。
    「やっぱ、すげえよ。サンタは」
    「儂らに不可能はないからの」
     時刻は、4時を超えていた。
     何をしようか迷ったが、スマホもなければ金もない。まずは、家に帰ろうか。
     サンタクロースを思い切り抱きしめ、何度も「ありがとう」と伝え、教会を後にした。

    【投稿者: 3: 寄り道】

    あとがき

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