Dear Dr.

  • 超短編 878文字
  • 日常
  • 2019年07月17日 23時台

  • 著者: 春火
  • 私の先生は、どこかおかしい。
    何がおかしいのかって、白衣を着ていないことでも医師の資格をもっていないことでもなく、どこかおかしいのだ。
    患者となる人々からお金を取らないのもおかしいし、処方される薬がティッシュに包まれてるのもおかしい。
    良く分からないことばかりだけれど、どこかおかしいのだ。
    それでいて、だれでも治してしまうのだから不思議そのものである。
    私は先生に過去、思わず質問したことがある。
    「先生はどこから来たんですか。」って。
    すると、先生は笑みを含みながら「空の向こうから。」って言ったのだ。
    当時、私はきっと答えたくないんだって思ったからそれ以上追求はしなかったけれど、本当に先生は空の向こうから来たのかも知れないって思う。
    先生の診療所は移動式(笑)で、いつ出逢えるのかは本当に分からない。
    けれど、私が困ったときや誰かが困ったとき、必ずと言っていいほど現れてくれる。
    「君が求めたからだよ。」と先生は涼しげに言うけれど、本当にそうなのだろうか。
    謎の尽きない先生だけれど、私は先生に感謝している。
    こうして、人生を充実とさせて生きられているのも、私に子供が出来たのも全て先生のお陰だ。
    主人には、先生のことを伝えられないでいる。もしも私が先生のことを伝えて、嗤われてしまったり、先生の存在を否定されてしまうのが怖くて誰にも言えないのだ。
    私は主人のことが好きで結婚もしたけれど、先生に対しては「好き」よりももっと上の特別な感情を抱いているのかも知れない。先生は今、何処に居るんだろう。
    夏の昼下がり、縁側で子供を膝に寝かせ、入道雲を見上げながらぼんやりと思う。

    先生、私は今も生きています。
    死と紙一重の生活をしていた私にも守るべき子供が居て、愛すべき家族が居ます。
    此の幸福は、確かに私が求めなければ叶うことの無かった夢かもしれません。
    ですが、あの時先生が私を診てくれなければ此の夢を見ることは不可能でした。
    先生、本当にありがとうございます。
    以前の私の様に困っている方々は依然として多く居るようですので、其の手腕を疑うこと無く存分にふるってください。
    私達の世界を頼みます。

    【投稿者: 春火】

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    コメント一覧 

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      20: なかまくら

      不思議な体験を経て、生きている私の、なにやら賛歌のような、
      そんな雰囲気のあるさわやかな物語でした。