お兄ちゃんが行方不明になってもう半年だ。
* * *
「いただきます。」
家で食卓を囲む度に、私は思い出してしまう。
4つの席には両親と私だけが座っており、ひとつ寂しげに空いている。
兄の孝宏が家を出て行方不明になってから半年、未だに顔も見ていない。
両親は最初は怒っていたが最近は呆れて話題にも出さない。
この家庭環境というか、家族関係は多分普通ではない。
どんな事情があろうと兄はこの家の息子であるはずなのに、その家出に対して「心配」の色は見当たらない。
ある意味兄は家出をして正解だったのかもしれない。あるいはこれこそ兄が家出をした理由だったのだろうか。
兄は見抜いていたのかもしれない。自分が両親からほとんど見放されていたことを。
「……行ってきます。」
いってらっしゃい、という返事は来ない。私も義務教育で通わせてもらっているだけなのだろうか。子どもの私には、それも推測の域を超えることはできない。確かめるのが、怖いのだ。
「……お兄ちゃん。だから、家出したの?
私には…分かんないよ。私も出た方が良いの?それともここに居た方が良いの?
…教えてよ、お兄ちゃん。」
登校中、思わず声に出して呟いてしまった。
「えっ、何か言った?ちょっと電波悪くて聞こえなかった。」
「あっ、ゴメン、何でもない。それよりもね、今日から数学が関数って奴なんだけど…」
言い忘れたが、兄の行方不明は所在が不明なだけであって、電話すれば普通に出るし、何なら毎日電話やメールをしている。
この兄、何故か音信不通ではない。
あとがき
とっても大遅刻しました。ミチャ寺です。
この遅れ様もある意味普通ではないですね(笑
精進致します。
コメント一覧
家出しても妹とは音信が途絶えてなかったんですね。ホッとしました^^
これは、予想できなかったオチであり、してやられました!
確かに、これは同タイトル「ふつうではない」にピッタリの作品だと思います。
ミチャさん、同タイ ピッタリ賞受賞、おめでとうございます☆
最初の悲しい雰囲気の演出から、最後の暢気な兄妹の感じ。
腰砕けになりました(笑