その誰も知らない大学の誰も名前を聞いたことの無い大学教授の論文発表が始まった。
誰もが思った。
「トイレ休憩だ」
尿意と便意と動く意欲の無い者だけが残った。
「ワタスはいんまだかつてねぇ画期的アプローチでタイムマスンさ、手に入れようとしとるだす」
まぁ、そんな出だしは飽きるほど聞いた聴衆達だ。
「ワタスは、罠さ仕掛けてぇ、タイムマスンさ、生け捕りにしようと考えただす」
聴衆は一気にざわついた。
「どうする? つまみだすか?」
「いや、一応、全部聞いてから質疑応答でギッタギタにするのがせめてもの情け……」
「まずは、でぇっけえカゴにつっかい棒さして、鳥の餌ば撒いたけんど、全然ダメだったぁ」
「おい、本当にこんなの最後まで聞くのか?」
「まぁまぁ、面白いかも知れんぞ?」
「んで、んじゃあ、次は、落とし穴作んべ、と思っただ」
「こんな与太話、一杯飲み屋でも聞けるぞ」
「んでも、地面に穴さ掘っても面白くねっぺ? んで、次元に穴さ開けようと思って、手始めに大量のカルミラート粒子を作ることにしただーよ」
今度はさっきと別な意味で聴衆がざわめいた。
「スリャアドさ出してくんろ」
投影されたスライドに聴衆は息をのんだ。
今まで人類がカルミラート粒子の純度を上げるのに立ちはだかってきたいくつもの壁を解決する方法が、惜しげも無く書いてある。その方法により精製されるカルミラート粒子の純度は99.999999999%。イレブン9と呼ばれる人類悲願の目標値であった。
「う、嘘だ。デタラメだ」
「い、いや、あんたも研究者なら分かるだろう? 感じないわけが無いだろう? 本物の匂いがプンプンするぞ!」
「んで、カルミラート粒子作り過ぎちまってよぅ。あーれ? なら、次元の外に行ける乗り物作って、タイムマスンさ、かっぱらいに行った方が早くねえべか? って思いついたのよう。いーや、オラ、天才だべか?」
「だから、その、『次元の外に行ける乗り物』自体がタイムマシンだって事に気づかんのか! この馬鹿!」
気がつけば講堂は人で溢れかえっていた。押せや押せやの超満員である。
「そーれが、新聞配達屋から買った中古のカブを改造して作ったもんだから、次元の壁さ超えるとき大破しちまってよう、はぁ、死ぬかと思ったっぺ」
「馬鹿者-! うちの大学でちゃんとした強度の資材で……」
「そんなことを言っている場合か! これは、国家プロジェクトを組むべき事態だ!」
「は~ぁ、やっぱり醜いねぇ。この星の住人はぁ。まぁ、こんだけ集まりゃ十分だっぺぇ」
「な、なんのことだ?」
「あんたらが夢中になってる間に、この部屋ごとタイムマシンに載っけさしてもらったよ」
「何ぃ?」
「この星には、まだ当分、タイムマシンが出来てもらっちゃ困るんでねぇ。あんたら攫えば、10世紀はタイムマシン開発は遅れるわ」
「お前ら何なんだ? 俺たちをどうするんだ?」
「やーだよー。おしえないよー。出発進行~!」
なんかよく分からないうちに、地球から科学者が大量に消えた。
あとがき
題名頼り。
コメント一覧
スリャアドがスライドに読み替えられなくて、笑いました。
それにしても、タイムマシンの罠・・・まさにその通り。