土方と斎藤

  • 超短編 2,657文字
  • 日常
  • 2018年05月24日 23時台

  • 著者: 参謀
  •  会津城下にある新選組の本営である如来堂の庭に土方歳三と斎藤一が立っていた。

    「さっきも言ったが俺は米沢藩に行き援軍を求める。斎藤は新選組を指揮して仙台に行ってくれ」

     土方は斎藤に言う。

    「分かりました」

     斎藤は答える。

    「済まないな。お前には迷惑をかける」
    「大丈夫ですよ。今まで散々無茶な命令を私にしてきたではありませんか?」
    「斎藤。お前も少し冗談が言えるようになったな」
    「冗談だと思いますか?」

     斎藤の言葉に土方は鼻で笑う。

    慶応4年(1868年)1月に京で始まった鳥羽・伏見の戦いに始まった薩長連合軍と旧幕府軍の戦争。新選組も旧幕府軍に入り戦ったが朝廷が味方にした連合軍が有利になり江戸に敗走を余儀なくされ、北関東・東北へと転戦を続けていた。
     その間に新選組は局長・近藤勇が斬首され、残りの組長達も戦死や離反が続き、会津に着いた時は主だった新選組の幹部は土方と斎藤だけとなっていた。

    「ところで斎藤は確か生まれは会津だよな」
    「は、はい。それが」

     土方は突然に自分の出身地を聞かれ斎藤は戸惑った。

    「そうか......」

     土方は少し考えるように言う。

    「斎藤。煙草持ってるよな」
    「はい」
    「一本くれ」

     斎藤は懐から外国製の煙草の箱とマッチの箱を取り出し、土方に渡す。土方は箱を貰うと一本取り出し、口に咥え、マッチに火をつける。

    「このまま吸えばつくのか」
    「はい」

     土方は空気を吸い込みながら口に咥えてる煙草に火をつける。
     その時、土方は激しく咳き込んだ。

    「副長。ゆっくり吸ってください」
    「ゲホゲホ。お前、よく吸えるな」

     土方は咳込みながら言う。

    「まあ、慣れですね」
    「そうか」

     土方は今度はゆっくりと吸う。

    「初めて吸うが味は分からんな」
    「最初はそんなものですよ」
    「そうか」

     土方は白い煙を吐く。

    「斎藤。お前は本当はどうなんだ?」
    「何がですか?」

     土方は煙草を指で挟む。

    「これから俺達は大鳥さん達と一緒にさらに北の蝦夷というところに行く。そこで戦う」
    「会津が負けた場合の計画ですね」
    「ああ」

     斎藤は目を閉じた。
     
     会津が負ける

     それは斎藤には想像できない物であった。
     斎藤の産まれた会津は武芸が盛んな藩であり斎藤も例外なく武芸に励み剣術の腕を磨いた。やがて各地を放浪して道場破りをしていた。大体の道場主は弱く、裏でお金を貰いワザと負けたりした。
     会津以外の藩の剣術は大したことないと高をくくっていた。 
     しかし試衛館に道場破りした時に対峙した沖田総司には一歩も打てなかった。
     そこで斎藤は自分の腕の未熟を思知らせれた。同時に斎藤の中にある会津魂に火がついた。
     それからである、試衛館に居座り剣術をさらに磨いた。

     沖田に一本を取るために

     斎藤が試衛館で剣術を励んでいる間に時代は激動になる。そして京で新選組三番隊組長として磨いた剣術を発揮した。
     沖田は新撰組一番隊長になり剣術の腕を上げ一本取れなかった。
     いつも斎藤の先には沖田が走っていた。斎藤はその後ろ姿を見て走り続けていた。
     
    「お前は戦う意志はあるのかと言う事だ」

     土方は声が耳に聞こえ斎藤は目を開ける。

    「戦う意志ですか?」

     斎藤は自分の腰にある刀に目をやる。
     自分は新撰組三番隊長であり、それを誇りにしてここまで戦ってきた。しかし江戸で沖田が病気で衰弱していく所を見ると戦う意志がぐらついていた。

    「お前は総司の剣術に惚れていたんだろ」
    「え?」

     斎藤はハッと土方を見る。土方はいつの間にかに煙草を咥えて白い煙を出していた。

    「ふん。本人は気づいていないか」

     土方は大きな白い煙を吐いた。

    「お前は総司の剣術に惚れて今まで戦ってきた」

     斎藤は土方の言葉に反論できなかった。

    「図星だな」

     土方は煙草をまた手で摘み。煙草を地面に落として靴で消す。

    「少し余興をしよう」

     土方は腰にある刀を抜く。

    「副長?」
    「斎藤。刀を抜け。お前が目指していた男。沖田総司にどこまで近づいたか確認してやるよ」

     斎藤は二・三歩下がり刀を抜く。お互いに正眼の構えになる。
     斎藤は土方を見る。

     鬼の副長

     京で恐れられた新撰組。その中で局長の近藤勇を補佐してどんな場面でも冷静でときには冷酷な所がある男。土方歳三。
     その土方がニヤと笑ってる。
     本気だと斎藤は思った。
     周りは静かだった。わずかに斎藤と土方の息だけが響く。
     土方の微かな刀の殺気が斎藤の全身に駆け巡る。

    『来る』

     土方が動いた。斎藤も動く。何かが弾く音が聞こえた。
     体が擦れ違う。互いの位置が変わる。斎藤はすぐに体を反転させる。
     土方はもう反転させ、正眼の構えをしていた。

    『速い』

     斎藤は正眼の構えをしながら思った。これが土方の剣術の実力。
     
    「ハハハ、試衛館の事を思い出すな」

     土方は子供のように笑う。斎藤も試衛館でいた事を思い出す。尊王・佐幕。そんな厄介な事は考えずにただ剣術だけの事を考えて汗をかいていた。

    「そうですね。私も楽しいですよ」
     
     斎藤は本心を言った。今度は先に斎藤が動く。それに対応するように土方が動く。刀が鈍く響く。お互いに反転する。
     
     純粋な一騎打ち

     いつしかそうなっていた。この瞬間でも斎藤も土方もこれが真の武士の戦いだと思った。
     短い時間、お互いは正眼の構えをしたまま膠着をしていた。

    「......ここまでだな」

     突如と土方は構えを解いた。

    「ここまでですか?」

     斎藤も構えを解く。

    「お前とやってると俺もこの会津で最後まで戦いそうになる」
    「え?」
    「お前は蝦夷に行くより会津で戦う事を望んでるだろう」
     
     斎藤は図星だった。土方は笑う。

    「新撰組はもう無い等しい。もう誰も止める物はいない」

     土方は刀を鞘に戻す。斎藤も同じく戻す。

    「俺はこの新選組の旗が嫌いだ。しかし俺はこの旗を持って最後まで足掻く」
    「嫌いですか」
    「そうだ。俺達の夢をこの旗は吸いつくした」

     土方の以外な言葉に斎藤はどう対応していいかわらなかった。
     
    「まあ、個人的な感情だ」

     土方はまた笑う。斎藤はただ土方の笑いを見てるしかなかった。

    「さあ、ここでお別れだ。すまないが餞別に煙草だけをくれないか?」
    「あ、はい」

     斎藤は煙草の箱とマッチの箱をを取り出し土方に投げ、土方は受け取る。

    「ありがとうな。まあ。蝦夷つくまでには慣れるわ」
    「慣れればけっこう美味しいですよ」
     
     土方は煙草を取り出し、口にくわえてマッチで火をつける。

    「斎藤。最後に一つ言っておく。お前の剣術は沖田を超える事はできない」
    「え?」
    「沖田と斎藤の剣術は違うという事だ。後は自分で考えろ」
    「はぁ」

     そう言い、土方は口から白い煙を吐く。

    「それじゃあ。また生きていたら煙草の感想を言うわ」

     土方は背を向けて歩き始めた。斎藤はただ土方の背を見てるしかなかった。

    【投稿者: 参謀】

    あとがき

    戊辰戦争で土方歳三と斎藤一の別れの部分を妄想で書いてみました。
    (土方は足を怪我してのでマトモに刀を使えるか疑問ですが、すいません大目に見てください)
    (あと、煙草ですがこれはるろ剣の斎藤一が色濃く残っているので作者の頭の中に)

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    コメント一覧 

    1. 1.

      20: なかまくら

      さすが参謀さん、渋いです。
      ままならない大きな流れの中で生きている二人、一瞬、打ち合っている瞬間だけが時がギュッと詰まっているようで、
      なかなか引き込まれる構成でした。