ボケ爺ちゃん

  • 超短編 972文字
  • 日常
  • 2018年01月06日 13時台

  • 著者: でんでろmk2
  • <家>

     腰の曲がった爺ちゃんが、ぶつくさ言いながら襖を開けて、入ってきた。

    「おーい、飯くれ! 飯!」

    「あなたには、食物摂取は必要ありません」

    「なんじゃ、若僧が難しい言葉で酷いことを言いおって!」

    「事実を述べたのですが……」

    「それなら、『テメェに喰わせる飯はねぇ!』とか言われた方がマシじゃ!」

    「ところで、その卓袱台の上のものは、何ですか?」

    「おぉっ! なんじゃ! 飯はあったのか!」

    「怒りますよ」


    <老人ホーム>

     爺ちゃんは今日も機嫌が悪い。

    「まったく、ワシをこんなところに追い出しおって!」

    「仕方ないでしょう? 家を維持できなくなってしまったんですから」

    「もう……、ワシは家には帰れんのか?」

     珍しく少し寂しそうだった。

    「少しは家のことを思い出せそうなんですか?」

    「何日帰ってないと思っとるんじゃ! 思い出すどころか、忘れる一方じゃ! あー、こんな殺風景な部屋じゃなくて、家に帰りたい!」


    <病室>

     爺ちゃんは、ベッドで寝ていた。もう、ずっと前から。

    「この部屋はつまらん。老人ホームの方が、まだマシじゃ! 医療機器以外は、ただ真っ白で!」

    「そんなのその気になれば、どうにでもなるでしょう?」

    「なるかっ? 寝たきり老人に何が出来る?」

    「その気になれば、100m9秒台も夢じゃないでしょう?」

    「無茶言うな! あー、つまらん!」


    <白い霞>

     ただただ、広がる白い靄。

    「なんじゃあ? ここは?」

     爺ちゃんは、ちょっと不安げだった。

    「とうとう、まともなものをイメージ出来ないほど、ボケてしまいましたか」

    「どういうことじゃ?」

    「あなたは、この世界の創造主なんですよ」

    「そんな馬鹿な」

    「いいえ、本当に創造主です。しかし、ボケてしまわれた」

    「じゃあ、お前は何じゃ?」

    「私は、あなたが、最後の力を振り絞って書いた、あなたが創造主であることを証明するメモのようなものです」

    「ワシは死ぬのか?」

    「『消える』と言うべきかと思います」

    「誰か、助けてくれんのか?」

    「この世界には、あなたの作ったものしかありません」

     創造主は、しばし考えた。

    「そうだ! 何でも思い通りになるなら、私の寿命だって……」

    「それなんですが、ボケてしまわれる前のあなたの言葉です」

    「なんじゃ?」

    「『この世界に、私以外のものが作ったかも知れないものが、1つだけあった。……私自身だ』」

    「……私は消えるとしよう」


     無数にある世界の1つが消えた。

    【投稿者: でんでろmk2】

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    コメント一覧 

    1. 1.

      1: 9: けにお21

      最後は創造主になるのかな?

      これはこれで楽しそうだ!


    2. 2.

      でんでろmk2

      けにおさんが?(笑笑)


    3. 3.

      1: howame

      ちょっと悲しげでコメント書けません。


    4. 4.

      1: 鉄工所

      リアルな看護記録は結構強烈ですよね。

      ところで
      白い霞に前に、黒い闇があり
      その恐怖を取り除く為に
      ボケるとも聞きます。

      途中ドキッとしたのは
      100ml を 9秒で 落とす点滴
      …を想像したら チョット気が楽になりました。