祭りの練習

  • 超短編 638文字
  • 祭り
  • 2017年12月10日 15時台

  • 著者: 1: 9: けにお21
  • 夢追いかけ年老いたひとりの老人は、小さな指輪に詫びる。

    老人はこの小さな指輪を何よりも大切にしていた。

    小さな指輪はプラスチックで出来ており、上にはクワガタの装飾がされていた。

    見るからに子供のオモチャで、安っぽい指輪であったが、この老人にとっては幸せの想い出が詰まった指輪であった。

    また、老人は死刑が確定し、現在は福岡の刑務所の独房で執行日を待つ身であった。

    老人は頼み込み、このクワガタの指輪を刑務所に持ち込み、毎日手に取り眺めた。

    若き頃の老人は、宇宙自動車の研究に没頭し散財した。

    自身が作った自動車で宇宙に飛び出し、宇宙で月見をすることが若き頃の老人老人の夢であった。

    研究が進まず、いよいよ資金が尽きた時、妻や子は消えていた。

    歯科医が本業であった若き頃の老人は裕福ではあったが、研究には莫大な費用が必要であり、到底賄えるものではなかった。

    破産からの闇金。絵にかいたように人生を転げ落ちた。

    毎日、金融の取り立て屋がやって来た。

    「おら、おっさん金払わんかいボケ!」

    家のトイレの中で耳を塞ぎ、ガタガタと震えた。

    恨んだ。

    「これも全て、家族が悪い。俺が研究に打ち込み、家財を尽くす前に、家族は俺をなぜ止めなかったのだ」

    こう思い立った若き頃の老人は、台所から出刃庖丁を待つと、実家へと帰った妻と子を、あろうことか、殺傷してしまった。

    幸せだった頃、子供にねだられ買った、小さなクワガタ型の指輪。

    老人は毎日、独房の中で、指輪に詫びていた。

    老人の独房の中の鉄格子から見える月はとてもきれいだった。

    【投稿者: 1: 9: けにお21】

    あとがき

    準備運動的に投稿しました。

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    コメント一覧 

    1. 1.

      20: なかまくら

      まつりだまつりだ!


    2. 2.

      1: 9: けにお21

      ワッショーイ


    3. 3.

      1: 鉄工所

      練習にしては…

      秀作です!


    4. 4.

      20: なかまくら

      スズメノテツパウです。
      ハッと我に返ったときに遺されたものが、おもちゃの指輪なんて、・・・かなしいですね。
      もっとハイライトを心に留めて置けたら良いのに、そうはいかないのが人生、ですかね。
      作者さんは、話の展開の進め方からして、けにおさん、か、あるいは鉄工所さんか・・・。


    5. 5.

      3: 茶屋

      「今回も始まりましたお祭りです。実況は私アメジストと解説の……」

      「ガーネットでお送りします」

      「さて、ガーネットさん。この作品を読んでみてどう感じましたか?」
       
      「最初の一行からどういったことが起きたのかを連想させ。そして後悔をし続ける老人の心情が描かれています。宇宙自動車なる言葉から未来である設定などもみえ、世界観が膨らみますね。最後の月がきれいという言葉が老人の悲しい心情を表しているようで、冬の夜空のような澄んだ読後感がありました」

      「なるほど、この作品の予想はどうなりますか?」

      「大変に難しいですね。ただ私個人の意見ですが、過去の祭りにあったけにおさんの作風ににているような気がします」

      「むーん、私としては別の方なような気もしますが難しいところです。それでは皆さん次回の予想でお会いしましょう」


    6. 6.

      爪楊枝

      お久しぶりです。シラカバ針と申します。
      お祭りですねぇ。お祭りですねぇ。
      楽しんでいきましょう!
      なにやら事情のある指輪を提示してから、その回想によって話を展開していく構成ですね。
      最初に読み手を引きつけるものを提示するのは、いいですね。ついつい引き込まれて読んじゃいました。クワガタの装飾がされた指輪ってなんだそれ!って突っ込みつつ。
      回想ののちに、いまへと帰り、指輪に詫びていた意味がわかる。なかなか面白かったです。ただ、過去の出来事にあまり捻りがなかったのが惜しいですね。


    7. 7.

      爪楊枝

      おっと予想忘れてた。けにおさんだと思いますよ。シラカバ針でした。