僕らはいつも一緒だった。
「1人じゃ、寂しいから」って僕らは手を取り合ったんだっけ。
君との緩く朗らかな日常に僕はどれだけ救われていただろう。
君の笑顔を見たい其れだけのことで、僕はどれだけ君を泣かせただろう。
いつかの君は僕にこう言ったよね。「君が居るから、私はこんな世界でも生きてるんだよ。」
僕はそんな言葉すら真正面から受け取ることが出来なくて、重圧に感じていた。
(そんな言葉に見合うほどの力量が僕には備わっているだろうか)
けど、そんな重圧を跳ね返そうと僕は必死に努力をした。学業に留まらず幅広い分野の知識を学んだ。
君が病気で悩んでいるから、嫌いな両親(医療従事者)との会話にも力を入れたんだ。
しかし、どれだけ自分を高めても僕は君に見合うほどの男にはなれないと知っていた。
(僕より、アイツの方がいいんじゃないだろうか。)
そんな思いは次第に膨らんでいき、やがて浮力が生じて君と僕との緩い日常からどんどん離れていった。
「今何してる?」たった其れだけの言葉が言えなくなっていた。
君からの着信を今か今かと待ち望む僕の姿を客観視したとき、「何をやっているんだ僕は」と時折嘆いたりもした。
けれど、君はそんな僕の様子を見て心配するようにもなったよね。
「最近元気ないけど大丈夫?」
君からの着信、すごく嬉しかったんだけど君に弱いところを見せるわけにはいかない。
「いや、全然大丈夫だよ。」
そんなやり取りを暫く繰り返すと、見かねた君は僕に「うそつき。」というと、そっぽを向いてしまった。
そんな君の姿を見ていて、僕は思っていたんだ。いや、ずっと前から思っていたことだったんだろ う。
(君は、もう此処にいるべきでは無い。)
いつの日か思わず、口に出してしまったのだろう。
其れを聞いた君は、怒ったように噎び泣いた。
(泣き顔が見たかったわけじゃ無い。)
君は、此処で立ち止まってちゃいけない人なんだ。
僕なんかと付き合っていることで、君の大事な残り時間を無駄には出来ないんだ。
だから、君にとびっきりのポーカーフェイスで告げたんだ。「さようなら。」
それ以来僕は君と話すことは無くなったけど、僕は君と過ごした日々の記憶が存在するだけで、僕にとっては充分なんだ。
ずっと好きでいていいだろうか。いいわけないよね。分っているんだ。
けれど、君との記憶だけは忘れられない僕の人生唯一の宝物なんだ。
誰に笑われようが、此の宝物だけは手放せないし汚させない。例え、君が笑おうともね。
君と過ごした緩く朗らかな日常の残滓が、今も僕を動かしている。
あとがき
自己中心的かつ自己犠牲的な坊やのお話です。
コメント一覧
記憶だけで、残滓だけで、充分とは、彼女のことを愛していたんですね。
だったら、あいつの方がいいんじゃないか、ってことで彼女と別れなくても良かったんじゃないかな、って思いました。
主人公はもっと頑張るべきでは、と感じました。
残滓だけで十分なんて、本当はそこまで好きじゃなかったんじゃないのって、逆に勘繰っちゃいますね、私だったら。
勇気を出して、ありのままを言えたら良かったのに。