中間管理職ヨドガワ

  • 超短編 2,278文字
  • 日常
  • 2017年11月16日 21時台

  • 著者: 1: 9: けにお21
  • 俺の元には、ろくでもない部下、がいる。

    指示や命令を聞かない。気持ちにムラがあり、浮き沈みが激しく、怒りっぽい。気に入らないことがあると、相手をつかまえ長々と説教する。時には、上司である俺に対しても、くだらない内容でくどくどと説教をする。態度が横柄。

    俺の元には、そんなロクデモ部下がいるである。

    他部署の連中は俺に言う。
    「あいつ(ロクデモ部下)をなんとかしろ!お前が上司だろ!ちゃんと教育しろよ!迷惑かけないようコントロールしろ!」
    腹ただしい。俺はロクデモ部下の母親ではない!あんな出来損ないの子を産んだ覚えも、育てた覚えもない!どうして俺が文句を言われなきゃならないのだ。頼んで俺の部下にした訳ではないのに。

    このロクデモ部下に対して、何度「死んでしまえ!」と思ったことか。

    (読者の中には、上司なのだから、ろくでもない部下であっても、説教し、指導し、言い聞かせればいいではないか?と思われるかも知れない。部下を教育するのが上司と言うものだろう、と感じられる方もおられよう。しかし、1年前に主人公たるヨドガワとロクデモ部下との間で、次のやり取りがあったのだ。そのため主人公のヨドガワはロクデモ部下に強く出られなかった訳である。)

    一年前、俺がロクデモ部下のワガママな仕事ぶりに叱った時のことである。
    ロクデモ部下「私のやり方が気にいらないなら、その仕事、今後はヨドガワさんがやってください。私はもうその仕事はやりませんよ」
    それは理屈云々ではなく、逆切れの反抗であり、感情からの仕事放棄であった。

    部下に仕事をさせることが俺の仕事である。そのため働かない宣言をした部下は、俺にとってゴミなのである。否、反抗的な態度は俺の指揮力にも大きく響く訳でゴミどころか、転移しかねない癌なのである。この時、俺は癌の誕生に驚き、頭にきて、このロクデモ部下を怒鳴り上げた。そして上司に進言し、部下を首にしようと画策した。しかし、上司からは「そういった人間を使いこなすのも管理職の仕事だ。犬や猫じゃないのだから、部下を気に入らないからと言って直ぐに首を切るのは感心しない。お前の管理能力不足だ。もっと上手く部下を使いこなせ」と、たしなめられた。早期に発見した癌の摘出手術に失敗した訳である。

    と言う訳で、俺はロクデモ部下への怒りを抑えることにした。癌との闘病・共同生活が始まった訳である。まさに苦労の連続であった。ロクデモ部下を誘い、飯や酒を奢ったりもした。ロクデモ部下をなだめて、すかして、ご機嫌を取り、下手下手に出ることで、やっとこそさ上司と部下との関係を保てるようになった。俺は業務遂行のため、自分の感情を抑え、耐えがたきを耐え・忍びがたきを忍び 、頑張ってきたのだ。俺はこの1年間ロクデモ部下に対し、ずっと血が滲むような苦労と我慢をし続けてきた訳だ。

    そして今朝、そのロクデモ部下に呼ばれて、俺はロクデモ部下と無人の会議室に入った。部屋に入るなり、ロクデモ部下は俺に対して、ヤクザのような理不尽な言いがかりによる説教を始めたのである。

    俺はこう心で叫んだ。
    『もーう我慢の限界だ! 堪忍袋の緒が切れたぜ! おかしいだろ、俺が上司で、お前は部下だ! 部下のお前が上司である俺に説教をするのはおかしいだろう! もはや俺の管理能力不足が問題なのではない!ろくでもないお前自身が問題なのだ!甘やかし続けた結果、王様になっているのだ。これ以上は看過できない』

    俺は会議室を出ると、すぐに上司の部屋へと向かい、このろくでもない部下を、俺の元から排除するよう申し出た。

    普段温厚なはずの俺が血相を変えてまくし立てるので、上司はとても驚いていた。しかし、必死に訴える俺の迫力に押されたのか、上司は快く了解してくれた。これで、俺の申し出は承諾された訳だ。
    (この上司はゴルフと麻雀狂いで、俺はこの上司の誘いに乗りチョイチョイ遊んでいた。これが効いていたのかもしれない。)

    ロクデモ部下の排除が決定した。部下は近日中に異動となるであろう。・・・俺が部下を外したのだ。ある意味、俺が他人の人生を変えてしまったのだ。とても嫌な感触だった。

    とは言え、とは言えだ、「やったー!間もなく癌が取れる!晴れ晴れだ!ざまーみろ!」であった。

    いつものようにロクデモ部下が隣の席に座っている。

    こんな日に限ってロクデモ部下はご機嫌であり、俺に優しい。やたらと明るく振舞い、俺に優しく話しかける。変だ。

    まさか、ロクデモ部下は俺から排除されようとしていることを察し、または上司から排除の話を聞いて慌てて「飛ばさないで(TT)、ちゃんとするから助けて!」と俺に訴えかけているのか???改心し、態度で示しているのか?

    しかし、もう、お前は飛ぶことが決まっている。水面下での決定事項だ。俺のせいで、いやソモソモはお前の態度の悪さが原因で、お前は遠くに飛ばされるのだ。身から出た錆びって奴だ。自業自得なのだ。そう、全然、可哀想ではない!

    ニッコリ笑顔のロクデモ部下
    「ヨドガワさん、お茶でも入れましょうか?」

    『おかしい、おかしい!くぬぅぅぅやめろ!急に俺に優しくするな!気が利く良い部下じゃないか!献身的な部下ではないか!心が痛いじゃないか!やっぱりロクデモ部下を飛ばすのやめようかな?・・・しかし男が一旦口にしてお願いしたことを簡単に撤回すれば、「ブレブレの男」との悪い印象を与えることになり、それはそれで上司からの信用を失うことになる・・・くぅうう、ロクデモ部下(実は女性)の横顔が、けな気に見えてきた(><)。つれえ!! 俺は今、情に絆されているぅぅぅううう!』

    【投稿者: 1: 9: けにお21】

    Tweet・・・ツイッターに「読みました。」をする。

    コメント一覧 

    1. 1.

      20: なかまくら

      最後に、じつは女性
      で、笑ってしまいました。見方で変わってきますよね、人の評価って。


    2. 2.

      1: 9: けにお21

      なかまくらさんへ

      サラリーマンにありがちな苦悩を作りました。
      そう、部下は女性なのでした。

      感想ありがとうございました。


    3. 3.

      苦悩している主人公がテンション高く、コミカルに描かれていて面白かったです。中間管理職って大変ですねぇ。


    4. 4.

      1: 9: けにお21

      桜さんへ

      感想ありがとうございます!

      世の中には本当に色んな方がいますから、上手くやっていくことは、とても大変なことだと思います。


    5. 5.

      1: 鉄工所

      あれ…
      ラスト磨きあげました?
      まあ
      僕は良く飛ばされた口なので
      良く分かります(謎)


    6. 6.

      1: 9: けにお21

      鉄工所さん、コメントありがとうございます。

      僕は、投稿してから、二、三日かけて磨き上げるスタイルなのですw

      人事のことは、デリケートな問題で、自分のこと、他人のこと、色々と考えさせられますよね。

      また、僕にしても、早々順風満帆なリーマン生活を送れている訳ではなく、飛ばされまくりの不良社員ですわ。
      今は北陸に飛ばされているし、次はどこに行かされるか?

      とは言え、どこにいても楽しく創作し続けます!