今日、同期が蒸発した。
部署は違かったけど、寮では隣の部屋だった。
あいつは俺と真逆な人間だった。
俺はロックが好きだったけど、あいつはジャズが好きだった。
多少の交流はあったけど、隣から聞こえるジャズはあまり好きじゃなかった。
あいつは甘いものが好きだったけど、俺は辛い方が好きだった。
寮の食堂では、俺が激辛麻婆豆腐を食べているのを見る度に、あいつは微妙な顔をしていた。
俺はスポーツが得意だったけど、あいつはからっきしだった。
会社の同期と行ったボーリングは、俺の方が断然上手かった。
あいつは東北出身だったけど、俺は九州出身だった。
あいつの訛りは一向に消えず、2年目になった今でも、俺は中々分からなかった。
俺は友達が多かったけど、あいつは1人が多かった。
俺が休日遊ぶときも、あいつの部屋からはジャズが聞こえていた。
俺は享楽主義だったけど、あいつは本当に優しいやつだった。
誰かがそのままにしていた食堂の茶碗も、大浴場の後片付けも、あいつは進んでやっていた。
あいつは正反対な人間だった。
俺は寮長に頼み込んで、あいつの部屋に上がらせてもらった。
あいつの部屋は、蒸発したのが信じられないほど綺麗だった。
荷物はそのままで、机の上にメモ紙があった。
あいつが家族と笑っている写真の隣にあったメモ紙には、ただ一言、
(仕事やめます。)
とだけ書いてあった。
あいつは帰ってこなかった。
翌週、あいつの両親が荷物を引き取りに来た。
あいつの部屋で見た写真より、やつれているようだった。
あいつは実家にも帰ってなかった。
いつまでたっても、隣の部屋からは、あいつのジャズは聞こえなかった。
あとがき
この物語は8割フィクションです。
どうも久し振りです。宵です。
兄の同期の話を、8割改変して書きました。
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