長らく降り続いた雨が止んだ。
敢えて電気は点けない。月明かりのみが部屋を照らす。
こういった静かな夜にはクラッシックが似合う、と君はしなやかな仕草でCDを入れ換えた。
そして、耳をすましてやっと聞こえる程度に音量を調整する。
ラックからビンテージワインを取り出し、栓を抜いてグラスへと注ぐ。
君は終始優美であった。「独りの時間」の過ごし方をよくわかっているようだ。
君は、もこもこの靴下を重ね履きして、もう一枚上着を羽織ってベランダに出た。
窓をあけると、さざ波の音が僅かに聞こえる。
このところずっと雨だったので、明るい夜に新鮮さを感じているのだろう。
風を柔らかく吸い込んで、深呼吸。
月は殆ど真上にある。君はそれを見上げていた。そして暫くして、首がいたいと擦っていた。
君は知っているかな。
夜が長いぶん、冬の月は長く空に滞在する。高度も高くなる。
真夏の太陽と同じだね。違いを云えば、月はそれでも満ちて欠ける。
君は高層マンションの五十七階に住んでいる。
辺りは、海のようだ。水面がすぐそこまで上がってきていた。
本当は、電気なんて来ない。食料だって尽きていた。
そうだね、世の中には君の想像の範疇を超える出来事というものが、ある。
水平線。船はない。
水面に映え、滲んで揺れる月を、君はじっと見詰めていた。
2014.1.25
コメント一覧
これは、アレですね。前に、二人称をテーマに書いた作品ですね。
懐かしいです。
二人称で書くと、カッコよくなりますね。いや、ことはさんの腕でカッコよくなっているのかな。
さて、57階に住んでいたのは君と言うのは、誰なのか?、と想像してみた。
まず、周りが海と言うことは、温暖化で世界が水没し、高層マンションの57階に住んでいた主人公が取り残された、と勝手に想像してみた。
しかし後半、食糧や電気が既に尽きたとある。そうなると、普通の人間では生きていられない。
もしや主人公は人間や動物ではないのでは?と考え直した。
あ、もしや主人公は鳥で、マンションの57階で羽休めしているのかな?
しかし、鳥ではワインは嗜まないし、クラシックも聞かないので、冒頭のくだりにそぐわなくなる。
やはり、主人公は人なのか?
世界が水没し、マンションの57階に取り残された主人公は、餓死し死んでしまった。
その霊が、まだマンションのその部屋に住みついていて、昔の生活(クラシックやワイン)をしているのだ。
きっとそうだ、と勝手に想像した。
2014年1月と言うことは、3年半年が過ぎたと言うこと。そして僕はこのサイトで4年生ぐらいかな。皆さんとの付き合いも4年?
感慨深い。
けにおさんへ
ご感想いただき、ありがとうございます。しかも覚えていてくださってたなんて嬉しいです。この情景はわたしも夢で見たものですので、様々な解釈があってよいと思います。当事は「電源引けなくても、電池式なオーディオがきっと、あるはず…」と思いながら書いてました。笑
そうですね、日付は二度見しました。ついこないだ書いたようにおもうのに、三年半も前だなんてびっくりです。これからもよろしくお願いしますね