笑い声が聞こえる前に、私は引き金を引けるのだろうか?
スコープをのぞき込んでいると、金属の塊と指先の境目があいまいになったような感覚に陥る。すでに、こうして一時間、私は標的を待ち続けていた。空気は重く、吐息までが粘つく。この一度しかチャンスはない。悲劇を終わらせるのは今日、このタイミングしかない。音速の鉄槌を下さねばならないのだ。
パーティ会場にはおしゃれなスーツと、派手なドレスがあちこちで蠢いていた。あんな服は一着だって持っていない。ただ、羨ましいとは思わない。その一着一着は血塗られた怨嗟の産物だからだ。
「兄ちゃん!」そう呼びかける声が、不意によみがえる。あの時の青ざめた、絶望の顔が今も頭から離れない。どうして、こんなことにならなければ、ならなかったのか。正当な答えなど断じてない。あってはならないのだ。
気がつくと、拍手が聞こえた。奴が壇上を登り始めた。ライフルを構えなおす。汗が顎から滴り落ちる。
そうだ。あの日も、こんな暑い夜だった。