水底の時計

  • 超短編 464文字
  • シリーズ
  • 2017年04月22日 23時台

  • 著者:1: 3: ヒヒヒ
  • 奇妙なものを見た。

    大きな箱の中に、金属でできた振り子が閉じ込められている。

    振り子が往復するごとに、箱の上部に取り付けた円盤の上で、針が動く。

    「時計というのです」と、地上の男は言った。

    「振り子が繰り返す。その繰り返しの数で、私たちは時を知っているのです」



    砂浜に立つと、波がやってきて、足首を濡らす。

    水に絡まれるまま立っていると、波が引いて、砂が乾き、また波がやってくる。

    繰り返す。

    「これは時計にならないのか」と聞くと、地上の男は言った。

    「使いたければ使えるでしょう。でも、私たちの役には立たない」

    「なぜ?」

    「波は早くなったり、遅くなったりする。そんな自由自在なものに、社会をゆだねる訳にはいかない。私たちはもっと別のやり方で、時を計るのです」



    水底に座ると、思い出がやってきて、頭の中を満たす。

    亀に乗ってやってくるあの人は、しかしすぐに背を向けて去ってしまう。

    また別の人がやってきて、同じことを繰り返す。

    何度も何度も、繰り返す。

    「私はもしかして時計なのだろうか」

    そう訊ねても、水の中では言葉は出ない。

    亀は固い瞳で、私を見つめている。

    【投稿者:1: 3: ヒヒヒ】

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    コメント一覧 

    1. 1.

      ことは

      水の中は時という概念がなさそうですね。悠久だけが沈んでいるような。亀さん、乙姫様を悠久から連れ出してあげて!