三月の彗星

  • 超短編 380文字
  • 同タイトル
  • 2022年04月01日 21時台

  • 著者:1: 3: ヒヒヒ
  • 「本当に見たの」と小学6年生だった妹が繰り返した。
    「彗星が、狭山湖に向かって落ちていったの」
    動画は? と聞くと「撮れなかった」と答えた。「でも見たの」

    その日、火球は目撃されていなかったし、狭山湖にクレーターができるなんてこともなかった。
    だから僕は信じなかった。父も、母も、隣の家のゆう君さえ信じなかった。

    だから、2022年の3月31日に、月の裏側から”兎たち”が彗星に乗ってやってきていたという
    “事実”は、長い間、人類に知られることがなかった。

    その事実がニュースで報道されたとき、すでに老齢の天文学者となっていた妹は、
    ふん、と子供のように鼻を鳴らした。「だから言ったじゃない。本当に見たんだって」

    そんなこと言われたって、困る。誰だって信じないだろう。君だって信じないはずだ。
    3月31日に彗星が落ちたのを見たと、4月1日に言ったのだ。小学6年生の子が。4月1日に。

    【投稿者:1: 3: ヒヒヒ】

    あとがき

    実話ではありません、というと嘘になります。このお話は将来、実話になるのですから。

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    コメント一覧 

    1. 1.

      20: なかまくら

      政府の陰謀によって隠されてしまったのでしょう。
      ”事実”が公開されるまでの経緯には、妹さんの戦いがあったと想像しました。
      >ふん、と子供のように鼻を鳴らした。
      が良い味出してます。


    2. 2.

      1: 3: ヒヒヒ

      なかまくらさん、コメントありがとうございます。
      ええ、政府の陰謀を暴き、兎たちの野心をくじくため、
      激しい攻防があったのですが、紙面が足らず……。
      味が出ていたようでよかったです。


    3. 3.

      3: 茶屋

      あぁ、良いですね。幼い少女の訴えを、大人になった妹は信じていた。
      自分を信じることは難しいものです。
      僕は子供の頃の自分の訴えを拾えているでしょうか?
      そう考えさせられました。