夫恋

  • 超短編 1,728文字
  • 恋愛
  • 2022年02月14日 15時台

  • 著者: 3: 寄り道
  •  先日、街の花屋で旦那を見かけました。
     そして昨日、花屋の近くにあるジュエリーショップでまた見かけました。それも両日とも、傍には私の知らない女性がいて、仲良く選んでいました。
     私の旦那に限って浮気なんてするはずがないと思っていましたが、それはただの私の理想を思い描いていただけにしかすぎず、旦那もただの男でした。
     そして、いつもだと夕飯の支度をして旦那の帰りを待っているのですが、今日に限っては夕飯の支度はせず、静かに旦那の帰りを待っていました。
     真相を知りたかったのです。
     問い詰めて、その場しのぎの嘘をつかれる可能性もありました。ですが今ある心のモヤモヤをこのまま隠して過ごすのは、私は耐えられませんでした。
    「ただいま」と言いながら、リビングのドアを開ける旦那。
     いつもとは違う空気を察したのか、静かに椅子に座る私を見て「どうかしたか?」と訊いてくる。
    「いいから、そこに座って」怒りや哀しみを隠すため、ぶっきらぼうな言い方になってしまう。
    「どうしたんだよ」
     私の口調におどおどする旦那。
    「あなた、正直に言ってね」
    「何が?」
    「5日くらい前に街の花屋で、私の知らない女性と一緒にいるところを見ました。そして昨日、同じ女性とジュエリーショップにいるところも見かけました。あの女性とはどういった関係なのですか?」
     旦那は少し驚いたのか、目を見開き大きくしながら、私を見つめている。
     そして最初に出た言葉が「見られてたかあ」という、隠すそぶりもせず、右手を額に当てて悔しがる姿でした。
    「やっぱり浮気していたんですね」ぶっきらぼうだった口調が我慢の限界に達し、怒りに変わっているのが自分でも分かった。
     付き合っていた頃から、こんなに怒ったことはない。自分でも浮気をされてこんなにも悲しくなり、頭に血が上るとは思ってはいなかった。
    「いやいやいや、ちょっと待って、誤解だ」そう言いながら、旦那はリビングを出て、また戻ってくると、手に花束を持っていた。
     頭の理解が追いつかない。
    「どういうこと?」
    「いや、誤解なんだよ。1週間後、誕生日じゃん。それに毎日、家の掃除やご飯を作ってくれてさ、本当にいい奥さんもらったなあ、と改めて思ったんだよ。だから何かしたいなと思って、部下の女子社員に訊いたら色々と提案してくれて、昼休み色々と見に付き合ってもらってたんだよ。そこを見られていたとはな」
    「浮気ではなかったってこと?」
    「断じて違う」きっぱりと私の目を見て言うと、提げていたら鞄から、リングケースを取り出し開けた。「本来なら、来週の誕生日に渡そうと思ったんだけど、昨日、花屋に花束を1週間後の誕生日に予約したら、今日の昼くらいに電話があって、今日の何時に取りに来ますか? って言われて、せっかく作ってくれたのに受取日が違うからとその花束を無下には出来ず、仕事帰りに受け取って来たんだよ。そしてどうやって渡そうかと考えて帰宅したら、浮気を疑われるし、やっぱり慣れないことするもんじゃないな」
    「私の勘違いだった、ってこと?」
    「勘違いさせるようなことをした僕も悪いけど、これからもずっと好きなのはお前だけだ。いつも本当にありがとうな」
     旦那が浮気をしていなかった安堵と安心、そして今でも好きでいてくれたことへの嬉しさ、旦那を信じてやれなかった私自身への憤り、様々な感情が込み上げ涙が流れた。
     そんな泣いている私を旦那はそっと包み込み、右手の親指で頬を伝う涙を拭い、優しく唇を重ねた。

     夕飯の支度をしている私に向かって「部下の子から聞いたんだけどね、こう書いてなんで読むか分かるか?」
     夫は、スマートフォンで『夫恋』と打って見せてきた。
    「ふれん?」夕飯をテーブルに並べながらそう答えた。
    「こう書いて『つまごい』って読むんだって。意味は、夫婦が互いに恋い慕うこと。本来は妻に恋と書くらしいんだけど、夫に恋でもそう読むらしく、花を選んでいるときに部下からそんな話されて、僕たちみたいだって」
    「あら!素敵な話ね」
     夕飯の支度が済み椅子に座る。
    「だろ!だからさ、もし子どもができたら子どもの名前、これにしないか?」
    「ぜっっったいにやめて!」
     旦那は笑っていた。そんな笑っている旦那を好きになったんだと、改めて感じた。
    「いただきます」

    【投稿者: 3: 寄り道】

    あとがき

    『嬬恋』←こう書いて「つまごい」と読むのは、群馬県の村名で知っていたのですが、『妻恋』だけではなく『夫恋』と書いてもそう読むことを最近知って、素敵な意味もしっかりとあることも併せて知り、この話が思い浮かびました。

    夫婦であるからこそ、互いに互いのことを改めて恋をしてみる。そして、照れ臭いだろうけど思いを伝えてみる。そんな関係でいられたら、素敵な家庭が築けると思います。
    自分もそんな人を見つけたいですね 笑

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    コメント一覧 

    1. 1.

      bbren

      素敵なお話ですね!私もいつまでも仲良くいられる夫婦が理想です。
      理想を現実に出来るのか…少しの努力は必要そうですが(笑)