コロナ禍で出会った青い鳥【FiRST MEETiNG】

  • 超短編 2,352文字
  • 日常
  • 2021年09月01日 20時台

  • 著者: 3: 寄り道
  • ≪私も廻り道さんを見習って、オリジナルソング作ったので、良かったらセッションしませんか?≫
     送られてきた音源ファイルを開き聴いてみた。
     世の中はまだコロナ真っ只中ではあるが、クリスマスシーズンということもあり、曲は聖夜を感じさせるバラード系で、歌詞の内容は、クリスマスの日にしか会えない切ない男女の物語。ピアノを弾く細い指から想像がつくような澄み切った綺麗な声がさらに切なさが表現され、この曲に自分のギターを加える行為は、言ってしまえば、現代風にアレンジしたクラシックみたいな余計なことだと思い『僕のギターは蛇足ですって』と送ると≪そんなことはないです。時間かかってもいいので、良かったら付けて下さい≫と言われた。
     ここまでお願いされたらセッションしないわけには行かない。ピアノと歌声を邪魔しないよう、一弦から三弦だけを使用し、蛇足ではありながらも凪のような存在でセッションした。
    ≪セッションして頂き有難うございます。私の初めてのオリジナルソングがこんなになるなんて嬉しいです。ですが、もう少しギターの音が欲しいかなあ、って思いました。ごめんなさい≫
    『PiNOさんの歌声とピアノを損なわないようにしたのですが、気に入ってもらえなかったですかね?』
    ≪これはこれで気に入っていますが、廻り道さんらしさがないかなあ、と≫
     初めて誰かの曲に対し自分なりにコードを書いて、イマイチと言われれば腹が立つが、PiNOさんの言っていることも的を射ていた。
     確かにこのギターには、自分らしさがない。
     自分らしさを出すには経験値が足りないのも事実だが、こうなったら自分らしさを追い求めもう一度作ってみようと、改めてPiNOさんの曲を聴きながらコードを書き始めた。
     曲を損なわずギターの主張は抑えて、前回はそんなことを慮って制作であったため時間がかかってしまったが、自分の好きなように作ると一週間もかからずに出来てしまった。
    『こんな感じでどうでしょうか』
     出来上がった曲は、完全にピアノと歌声がギターで消えてしまうくらいで、前回のと百八十度違った雰囲気の曲調となってしまったが、自分としてはかなりいいものに仕上がったと自負していた。
     DMはその日のうちに返って来た。
    ≪やっぱり、廻り道さんは天才です。もし良かったら、ギターだけの音源を送ってもらえないでしょうか? 少し変えてみようと思います≫
     改めてギターのみの音源を送り数日後、URLが送られてきて≪公開したので見てみて下さい≫とのことだった。
     歌声、ピアノ、ギターそれぞれのボリュームは調節されており、前回、僕が送った音源よりもさらに三位一体となったその動画に、自分が携わったとの実感が湧かないまま、約四分の動画が終わってしまった。
     僕もPiNOさんも顔出しはしていない分、互いの素性はギターが好きな人とピアノが好きな人、それ以外には何一つ分からなかったが、自分のオリジナルソングのときもそうであったように、見ず知らずの人とこんな風に素晴らしいものを制作できることに、リアリティーは感じられなかった。
     それからバイトしながら、今度はどんな歌詞を書こうか、どんな曲調がいいかな、など早くPiNOさんとセッションがしたく思考を巡らせ、PiNOさんの曲とセッションした一カ月後≪登録者、二十万人超えました!!≫と喜ばしいDMが届いた。
    『おめでとうございます。PiNOさんの歌声とピアノの上手さを考えると、遅いくらいですよ』
    ≪いえいえ、廻り道さんとセッションしてから動画の伸びも良くて。廻り道さんのYouTubeはどうですか?≫
      そういえば待ったくもってYouTubeを開いていなかった、と思い久々に開くと、初めて上げた【リアリティー】に沢山のコメントが付いていた。
     コメントの殆どが「PiNOさんの動画から飛んで来ました」であったが、数人だけ「もっと曲を聞きたいので、上げる頻度高くして下さい」という激励のコメントもあった。
     否定的なコメントも見受けられたが、それ以上にコメントをもらえた、ということが何よりも嬉しかった。
    『僕の動画のコメントに、PiNOさんから飛んで来ました、という方がいて、宣伝して頂いてありがとうございます。これからYouTubeにも力を入れて行き、オリジナルも作ろうと思うので、もしよかったらまたセッションしましょう!!』
    ≪はい!!ぜひ、またセッションしましょう。ところで……≫そう綴られたDMにまた目が点となった。≪緊急事態宣言が終わったあたりに、東京へ遊びに行こうと思っているので、良かったら会いませんか?≫
     女性からそう誘ってもらうこと自体初めてに近かったが、折角こうやって繋がれた人と会う機会なんてそうそうないし、どこに住んでいるのかも分からないが、コロナ禍でもこうして会いましょうと言ってくる人の気持ちを無下にすることは出来ずに『ぜひお会いしましょう』と送った。

     五月三十一日に緊急事態宣言が解除され、六月五日土曜日、PiNOさんから≪東京に行きます≫とDMが届いた。
     待ち合わせは、十二時に新宿駅東口のライオン像の前。当日には≪このような格好で行きますので、宜しくお願いします≫と画像付きでDMが届き、同様に自分の格好も送った。
     ライオン像の前で、胸の鼓動をひしひしと感じながら待っていると、DMで送られてきた格好の女性を見かけ手を振った。
    「初めまして」と声をかけ、PiNOさんの顔初めて見た。
     黒の花柄のスカートに身を包み、黒のショートブーツを履き、ポシェットを肩から提げた出で立ちであった。マスクをしているものの、顔出しした方が人気出るのではないかと思うくらい綺麗な人だった。
     緊張で強張る僕の顔を見つめPiNOさんは少し笑みを浮かべて「実は初めましてじゃないんですよ」と話し始めた。

    【投稿者: 3: 寄り道】

    あとがき

     前回の続きです。
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    コメント一覧 

    1. 1.

      20: なかまくら

      お互いの良いところを生かしながら、曲作りをしていく様子が丁寧に描かれていて、わくわくしました。初めてじゃない!?・・・とは。
      相変わらず、引きがうまいですね~。続き読んできます!