春花秋闘

  • 超短編 1,072文字
  • 恋愛
  • 2017年04月02日 22時台

  • 著者: 1: 鉄工所
  • 何となく黄昏

     

    「先輩っ、手紙読んでくれましたー」

     

    くの字に結んだ口から上目遣いで話しかけるにのは、湘南成城学園高校2年の麻里亜

     

    「ううん。読んだ読んだよ」

     

    混雑で混み合う空港周りを旋回する飛行機を横目に見て返事するのは、同校3年の絢斗

     

    西風が吹く階段の途中で靴の紐を結ぶ、幼馴染みの二人に肌寒い風が伝う、銀杏の葉はめっきり秋色になってきた。

     

    一つ下の麻里亜にとっては絢斗の進路が気になってしょうがない、もちろんそう言う年頃だから

     

    「もうっ 読んでないでしょ 」

     

    さっきの飛行機がまた一周して来た、でっかい黒のフォークを持って仁王立ちの小悪魔麻里亜に慄きつつも

     

    「ったく、うるさいなぁ 」

     

    スポーツドリンクを飲んでから、一呼吸開けてそう答える。防災無線から夕焼け小焼けが流れる時間

     

    そんな頃もあった、一年は早くもう春になり福島の大学で今年二度目の夜桜を眺めると、ふと無くしてしまった春色の便箋を思い出す。

     

    「麻里亜は元気かな?」

     

    夜桜の妖精か?そこに麻里亜がいる。

     

    「えっ!何でここに?」

     

    「もう、読んで…」

     

    4月4日24時の消える街灯と共に消えた。

     

    「こんなところに居るわけ無いよな〜」

     

    「びっくりしたぁよ」

     

    余命3〜6ヶ月、湘南の春一番は荒れ狂った。

    貧血の症状が意識を遠ざける、麻里亜は病床にいた。

     

    その時ベッドサイドのモニターが赤く光る。

     

    ステージ ? と言う局面

     

    病室のロッカーには向日葵の浴衣、今年の花火が観れるかどうか、誰にも分からない感じがしていた。

     

    「お前聞いたか?」

     

    「え?何にも」

     

    はやぶさMaxやってて来た優希から聞くと

     

    「緩和ケア病棟だってよ麻里亜入院してる」

     

    「何だそれ?」

     

     

    「まあ、夏休み行ってやれよ」

     

    「分かった。ありがとう!」

     

    同年 7月7日

     

    「………」

     

    「…。」

     

    病棟に見舞いに行くが、声帯は既に切除しているの話しは出来ず携帯のメモで筆談

     

    昨年の秋に発病していたそうだ。

    もう体力も殆どない、血の気もなく桜色には程遠い

     

    〈ハナビ ミタイ〉

     

    これだけは理解出来た。

     

    免疫不全で外出が出来ないので、ハイビジョンのビデオを買うため3つのバイトを掛け持ちした。

     

    もちろん辛かったが、向かったのは新潟だ

     

    「凄いよ、真っ白な雪のようなフィナーレだ!!」

     

    「これで、願いが叶えらるよ」

     

    しかし、一抹の不安がよぎる。間に合うのか?

     

     

    タクシーという車にはじめて乗った、翌日急いで病棟へ向かう。

     

     

    昨日の重なる花火と裏腹に、ベッドサイドのモニター静かな直線だ。

     

    「嘘だろ……」

     

    「真面 ウソだぁぁぁ」

     

    ハイビジョンの花火画像と共に、ベッドサイドに雪が降る、終わらない

    フィナーレは悲しすぎる。

     

    《真夏の雪》

     

     

    享年20歳

     

    早すぎるフィナーレは悲し過ぎる。

    【投稿者: 1: 鉄工所】

    Tweet・・・ツイッターに「読みました。」をする。

    コメント一覧 

    1. 1.

      1: 9: けにお21

      麻里亜、可哀想だ!


    2. 2.

      1: 鉄工所

      血液のガンは進行が早く、ネットの知り合いももう何人も亡くなりました

      もしや…薬局じじいなら生薬で治してくれたかもしれません。


    3. 3.

      猫の耳

      男女の恋愛で、亡くなる事での別れは、本当に切なくて悲しいです。
      若い人は特に進行が早いから。


    4. 4.

      1: 鉄工所

      晩年の予期出来た死別の場合は、ごく稀に穏やかな事があるとも聞きます。
      でも、とても向き合う事も大切だと思って描きました。
      二十代の頃に従姉妹が亡くなりましたが本当に早かったです…


    5. 5.

      キノ

      切ないです。死は早ければ早いほど、胸が痛みますね。今ある身体を大切にしないと。。ときおり思い出して読みたくなる作品のひとつですね。


    6. 6.

      20: なかまくら

      ああ・・・これ、覚えています。若いときって、みえないんですよね。だから一生懸命なのかもしれませんが、、


    7. 7.

      1: 鉄工所

      若年期に死別は特に痛みます…
      もう何人見送ったんだろうと思うと、与えられた命を大切にしなければと深く想います。読んで頂ける事が幾つかの魂の供養になると思います。


    8. 8.

      1: 鉄工所

      実はこれ
      偽装しようと一所懸命書いたのです。
      書き込む程に作風が出たと言う失敗例
      でも、見えない素直さは素敵ですね…若い頃