ときには短編小説を

  • 超短編 913文字
  • 同タイトル
  • 2021年04月08日 22時台

  • 著者: 20: なかまくら
  •  なぜ戦をしなければならないのか。みそ汁を啜り、その塩味で白米を口に馴染ませる。塩味が、白米本来の甘みを引き立たせる。Yシャツに黒いスラックス、首も袖も端のボタンはまだ留めていない。むぐむぐと噛み、最後に程よく熱の逃げたお茶を飲んだ。
    「もう片付けていい?」「自分でやるよ」
    食器を洗う音がする。水が連続的に流れ落ちる音がしている。
    「最近はさ、なんだか時間がゆっくりに感じるんだ」「ええ?」
    「何かがあったわけじゃないんだけど、大切なんだ。大切に思っているから、時間を細かく細かく刻んで、その一粒一粒を味わうようなそんな気分なのかもしれない」「じゃあ、私は、お米の粒みたいなものかしら。あなたが味わって、消化されて身体の一部になって、心の一部になって」
    カチャカチャと食器が鳴り合って、手を掛けてあるタオルを持ち上げて拭いて、エプロンの結び目を解いている。
    「お互い様だと嬉しいんだけど」少し出てきた君のおなかをさする。
    「食べた分だけ食べられて、混ざり合って次第に分別できない複雑なものになっていくと、うれしいね」
    そう言って、おなかをさする君を見た。



    読み終えて紙を閉じる。窓の外を見ると、2頭立ての馬車が土煙をあげていた。食べかけだったパンをミルクに浸して柔らかくして、急いで口に入れた。遅れて土埃が壁の隙間から上がってくる。それを横目に飲み込むと、下に敷いていた魔法陣の描かれた紙をきれいに畳んだ。身体の傷がむず痒い熱を帯び、塞がっていくのをジッと待った。
    「ふぅ」
    魔法の才能はなく、買うしかなかった。どう見ても今までの世界ではないここで突然目覚めて、ようやくここまで来た。言葉は通じるが文字は読めなかった。掃除、店頭販売、日雇いの魔物討伐。武器は支給品だった。知人や仲間も増え、そしてあるいは死んだ。何人かで小さな小屋を借りた。魔法はないが、教えてもらった剣が、命をつないでくれた。なぜ戦をしなければいけないのか。胸ポケットに入っていた紙切れ。そこに描かれているささやかな幸せ。短編小説の中の世界でも、同じ言葉から始まる。たった1枚からなる、その元の世界とのつながりを、ときどき開いて眺める。いつか、この紙を手放す時が来るのだろうか。

    【投稿者: 20: なかまくら】

    あとがき

    なんかこんな感じになりました。

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    コメント一覧 

    1. 1.

      1: 9: けにお21

      良い出だしに感じました。
      なかまくらさんの作品には、ムードがありますねー
      世界観と言うか。

      今回はRPGの世界に紛れ込んでしまったお話ですね。
      戦いに明け暮れる毎日に嫌気がさしてるのかな?
      また、胸のポケットに入っていた紙には何が描かれているのか? 気になります。


    2. 2.

      20: なかまくら

      >けにおさん
      感想ありがとうございます! ちょっとうまく伝えられなかったみたいです。すみません。
      紙に書かれているのが、最初の短編小説のつもりでした。元の世界を思い出して・・・みたいな感じでした!


    3. 3.

      3: 茶屋

      別世界での元の世界の繋がり、というか小説の中から外の世界を思い出すような。
      そんな感じです。思えば一つの物語でも読み手の考え方によって色んな受け取り方ができるんだなぁという風に思いました。


    4. 4.

      20: なかまくら

      >茶屋さん
      感想ありがとうございます。覗くばかりではない気がして、こういうものができました^^