サンタが与えたもの ~ Last season ~ 第一夜

  • 超短編 1,095文字
  • シリーズ
  • 2019年12月24日 19時台

  • 著者: 3: 寄り道
  • 【前回までのあらすじ】
     栗栖聖也を殺害した黒井三太は、事故で記憶を失った枡野を騙し、交際していた。
     しかし、栗栖の記憶と引き換えに記憶を取り戻した枡野は黒井を恐れるようになってしまう。
     黒井にとって記憶を取り戻した枡野という存在は、SEXは愚かキスも出来ない、傍にいたところで邪魔な存在になんら変わりにないため拳銃で殺害しようと試みるも、事件の顛末を全て知った枡野に返り討ちに遭い、背中を包丁で刺され出血多量でこの世を去ってしまう。
     枡野も、黒井の銃弾に被弾したものの、なんとか一命を取り留めた。
     だが、彼氏である栗栖を失ったショックから、今もなお精神科で療養中である。
     幽霊となり枡野を見守る栗栖の運命やいかに。

     幽霊になって3年目。こういった場合、不幸中の幸い、という言葉を用いて良いのかどうか分からないが、幽霊であるため、腹も減らず、睡魔も襲ってこないため、片時も離れず精神科で入院している枡野愛の隣に寄り添って見守り続けていた栗栖聖也。
     しかし幽霊だから、枡野から栗栖の姿は見えないし、栗栖自身、枡野に触ることはできない。怒りに似た哀しみだけが、栗栖の心に蓄積していた。
     不定期的に枡野は泣くときがあり、そんな枡野にずっと寄り添い看病するナース。
     そんな状況を隣で見るたび「ここにいるよ」と何度も声を張り上げるが、届くはずもなく、早くクリスマスになれと願うばかりだった。
     そして、入院してから3か月後。主治医から退院を促され、1人で暮らして行くにはまだ無理があり、退院してからすぐに働ける状況でもないため、家族のもとに引き渡された。
     まだ元気を取り戻していない枡野を見て、主治医に憤りを感じる栗栖ではあたっが、精神の病は病院にいても治らないことは、栗栖にも分かっていた。
     栗栖を失ったショックから立ち上がるのは、他の誰でもない。枡野自身なのだ。
     枡野の母は退院日に豪勢な手料理を振舞うが、枡野は無言で食べるだけだった。
     母の「美味しい?」の質問に頷き、また涙を流し始める。
     父は、慰めようとする母に優しく「泣けるだけ泣かせてやれ」と声をかける。
     そんな今は泣くことしかできな枡野とは打って変わって、死んで心を失くし幽霊になったからといって、感情を失くしたわけではない栗栖はそんな両親を見続け、失ったはずの心が締め付けられ、意味がないと分かりつつも教会に足を運んだ。
     この世に神がいるかどうか分からない。もし存在するとしても、幽霊となった者の願いを叶えるはずもない。叶えてくれるのは、あのサンタクロースだけなのだ。
     そして、泣くこともできず、怒りをぶつけることもできない悶々とした日々を過ごして行き、ようやく1年が経った。

    【投稿者: 3: 寄り道】

    あとがき

    3年前にクリスマスシーズン限定で書いてきたこの話がやっと、終わりになります。
    今年も第七夜まで続き、クリスマスシーズンを超え、終わりが年末になりますが、宜しくお願いします。
    意見や感想、お待ちしております。

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