リアルタイム・シンガーソングライター

  • 超短編 1,656文字
  • ジョーク
  • 2019年03月16日 14時台

  • 著者: 3: 寄り道
  •  デビューシングルの『友達以上恋人未満』からライブはスタートした。
     そして続けて『大好き』『許さない』の3曲を披露したあと、MCが始まる。
    「今日は、私の1周年記念ライブにお越し下さいまして、ありがとうございます」
     ライブ会場が拍手で包まれる。
    「メジャーデビューすると同時に、大学デビューも決まり、CDは出すけど、こうやってファンのみんなと交流できずじまいで、本当にごめんなさい」
     頭を下げると「そんなことないよ!」とファンが声を上げる。
    「やっと最近、大学が落ち着き、ベストなタイミングで事務所からこのような機会を設けてもらい、こんな風にファンと一緒になることができました。今日はみんな盛り上がろうね」
    「わー!」「イエーイ!」!そして拍手が入り乱れる。
    「今日はデビューシングルから今まで出したシングルを全て披露します。私の好きな人のことを思って作ったデビューシングル『友達以上恋人未満』。そして、そんな関係を壊してもいいと思い、想いを伝え見事付き合うこととになった時の感情のまま書いた『大好き』。そして付き合って3ヶ月目のある日、彼氏が浮気していたことを知り、そんな彼氏に宛てた曲『許せない』。次に披露する曲はそんな浮気をしていた彼氏への私の気持ちを歌にした曲です。それでは聞いて下さい『やっぱり大好き』」
     また拍手が起こる。
     スローテンポなイントロから始まったこの曲は、サビでは少しハイテンポな曲調へと変わり、自分の感情を露わにした構成だった。
     CDとは一味違う生声にファンは再度、心を打たれた。
     その曲が終わると、続いて『復縁』が流れた。
     アップテンポ、晴れ晴れとした音色に、サイリウムが綺麗に揺れ、曲が終わる。
    「まだ中盤なのに、サイリウムが綺麗で涙が出そうになりました。本当にみんな、ありがとう!」
     歓声が上がる。
    「大好きな彼氏と復縁したのもつかの間。また彼氏が浮気してできた曲『恨んでやる』。そして、そんな彼氏と紆余曲折しながらも、2人で暮らして行く中でできた、2人の結論というべけ曲『赤文字のLove Letter』。2曲続けてお聞き下さい」
     どこで練習したのか分からないが、初めてのライブなのに、ファンからはコールが発せられ、ライブが益々盛り上がる。
     そんな声援に感化され、シンガーも花道をファンとハイファイブしながら、中央ステージに来て、歌い上げる。
    「何度も言うけど、みんな今日は本当に本当にありがとう!こんな素敵な1日をファンのみんなと過ごせて私は幸せです。でも淋しいことに、そんな幸せな時間があっという間に過ぎ去ろうとしています」
     ファンからは「終わらないで」と方々から聞こえてくる。
     そんな声援に涙しながら「ありがとう」と呟くように言う。「それでは最後に聞いて下さい『緑文字のHate Letter』」
     その曲を歌いながら、メインステージに歩んで行き、歌い終わると、深々と頭を下げて、顔を上げると涙を流していた。
     曲は終わったが、声援は鳴りやまないまま、ステージは暗転した。
     アンコールが聞こえてくる。
     暗転して10分後、再びメインステージに照明が当たり、シンガーが出てくる。
    「盛大なアンコールありがとうございます。こんな大きなステージで、素敵なファンの方々と今日という日を迎え、私にとって忘れられない1日となりました。最後の曲を迎える前に、みんなで写真を撮りませんか?」
     歓声が上がる。
     カメラマンが脚立に上り、パノラマ・カメラで会場全体を撮影する。
    「ありがとうございます。この写真はTwitterに載せるので、楽しみにしててね。それではアンコールにお応えして、最後に今日の日のために書いた2曲を聞いて下さい『再婚』そして『引退』」
     歌い終わると、笑顔で手を振りながら、舞台袖へと消えて行くシンガー。
     会場は騒然としていた。
     シンガーがいなくなったメインステージのスクリーンには「今日をもって私は芸能界から引退します。たった1年だったけど、今まで本当に応援してくれて、ありがとございました!!」と映し出された。
     まだ会場は騒然としたままだった。

    【投稿者: 3: 寄り道】

    あとがき

    こんな歌手いたら面白いだろうな、と思って書いてみました。

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