ようこそが止まらない

  • 超短編 1,730文字
  • 祭り
  • 2019年01月14日 10時台

  • 著者: 1: 9: けにお21
  • 「これはもう、タイムマシンを使うしかない・・」

    目の前で、夫が倒れている。いや、確実に死んでいる。

    先程、バナナの皮に足を滑らせた夫は、後頭部をローテーブルの角に打ち付け、目は白目を剥き、頭からは血がドクドクと流れ出ているのだ。

    私は、急いで倉庫に向かった。

    倉庫の片隅にある、ブルーシートに覆われた塊を見る。

    夫は科学者で、(生前)タイムマシーンを完成させていた。

    夫はタイムマシーンを完成させていたが、使うことを恐れていた。

    夫は、「このマシーンで過去や未来に行き、歴史を塗り替えてしまっては、世界がおかしくなる。せっかく完成させた大発明だが封印する。」と言って、タイムマシーンをブルーシートで隠してしまったのだ。

    私は、シートをめくり、タイムマシーンを見た。

    パンダの形をした、背の低い乗り物が現れた。

    『ようこそ、未来や過去に!』と書かれた張り紙がある。

    科学者である夫は、「どうせタイムマシーンを作るなら、子供たちにも受け入れられるように、可愛い乗り物にしたい。」とかで、遊園地にあるようなパンダの乗り物型のタイムマシーンを作った。

    パンダの乗り物は二人乗りで、足元にはペダルがある。
    ペダルを漕ぐと前に進み、ペダルを逆に漕ぐと後ろに進む。
    そして前に進むと未来に進み、後ろに漕げば過去に戻る。
    漕ぎ終えて、乗り物から降りると、未来や過去に行ける、らしい。

    『ようこそ、未来や過去に!』と書かれた張り紙を剥がして、パンダの乗り物を家の表に出した。

    近所のおばさん達が、道端で井戸端会議をしていて、好奇な目でこちらを見ている。

    「あら、山田さん、それなーに?」

    奇怪なパンダの乗り物を家の外に持ち出した私に質問を投げた。

    ここは田舎で、田舎のおばさん達は噂が大好きなのだ。

    そのため、この田舎で生きていくには、目立たず、騒がず、ヒッソリと息を潜めて生きていくことがクレバーなのだ。

    「パンダの乗り物はタイムマシーンで、先程事故で死んだ夫を助けに行くために、今からこれに乗り、過去に戻り、夫を救うのです。」が、おばさんの質問に対する正しい回答だ。

    しかし、そんな事を言っても相手はおばさん。信じてもらえないどころか、パンダの乗り物に乗ってサドルを漕ぐ私を見て、ゲラゲラと笑い転げるに違いない。

    「そうだ!」

    閃いた私は、倉庫に戻り、チェーンソーを持ち出した。

    ブルンブルン

    おばさん達の前で、チェーンソーを引き、エンジンを掛けた。

    おばさん達の顔が引きつる。

    「あんた達の噂で、どれだけの人が迷惑被ったか? 今から思い知るがいい」

    ふつうではない。

    夫に死なれ、今からパンダ型の乗り物を漕がなくてはならない状況下、正気ではいられようか。

    「ジェノサイド!」

    気がつくと、辺りは血の海で、切り刻んだおばさん達の肉片が飛び散っていた。

    「イチド、オマエらをヤッテミタカッタ」

    本来なら、私は殺人事件の犯人として刑務所行きだろう。
    しかし、こちらにはタイムマシーンがある。

    私は、肉片と、血の海を横目に、タイムマシーンに乗り込んだ。

    「警察が来る前に、戻らなきゃ」

    私は、過去に戻るために、パンダを後ろ向きに漕ぎだした。

    「そろそろ、良かろうか?」

    しばらくパンダを漕いだ私は、家の前の血の海地獄に戻り、パンダから降りた。

    ピカピカ、と目の前が光り輝いた。

    すると、道端の血の海や肉片が消えて無くなり、おばさん達は復活していた。

    「良かった」

    道端で井戸端会議をしているおばさん達は、再びこちらを好奇な目で見ている。

    「あら、山田さん突然現れて、びっくりしたじゃない! ところで、服が赤く汚れているし、隣のそれなーに?」

    殺される前のおばさん達は、私に同じ質問をした。

    再びフツフツとしたムカつきと、アの衝動が込み上げてきた。

    「どうせ戻れるのだし。もう一回」

    私はパンダ型の乗り物からチェーンソーを取り出すと、再びチェーンソーのエンジンを掛けた。

    ブルンブルン

    辺りは、また血の海となり、おばさん達の肉片が飛び散った。

    その時、私はパンダに貼ってあった『ようこそ、未来や過去に!』の張り紙を思い出した。

    「あなた。どうにも、ようこそが止まらないわ」

    苦笑した私は、再びパンダに乗り込み、後ろ向きに漕ぎ出した。

    私と隣の席に置いたチェーンソーは、返り血で真っ赤に染まっていた。

    【投稿者: 1: 9: けにお21】

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    コメント一覧 

    1. 1.

      1: howame

      えー誰でしょう?残酷だけどストーリーはうまい。茶屋さんかなぁ。


    2. 2.

      20: なかまくら

      充電中です。私がしたことは変わらないし、過去に戻っても無くならないんですよね。
      だからタイムマシンは危険なんですよ~。


    3. 3.

      1: 鉄工所

      正直の言うと
      分かりませんでした。
      若干ホラーを擬装した感はあるなぁと思いましたけど
      とはいえ、タイムマシンと殺人の取り合わせはなかなか秀作だと思います!