人の温もり

  • 超短編 1,080文字
  • 日常
  • 2018年07月22日 08時台

  • 著者: 1: 9: けにお21
  • 俺は、長らく人に触れておらず、人の温もりを感じていないことに気づいた。

    「人の温もりって、どんなだったかな?」

    その感触を思い出すべく俺は、スーパーのレジで、お姉さんからお釣りをもらう際に、どさくさに手を握ってみた。

    むぎゅ

    「うわあ、お姉さんの手、とても柔らかくて、あったかいですね」

    俺は、人の温もりを感じて、思わず感動し、声に出した。
    産まれて初めて、母の手に触れた時もこのように感動したのかな?と思った。

    スリスリ

    さらに手を頬に寄せて、スリスリしてみた。

    「お姉さんの手、とてもすべすべですね」

    レジの女性「のおおおおう、おっさん何しよん?このどへんたいー、誰かー助けてー!!殺されるー!」

    びっくりし、思わず手を離す。

    チャリンチャリーン

    お姉さんは、握っていたお釣りを床に落とした。

    むむ。レジの女性は関西人のようだ。何をわめいている? 怒りたいのはこっちの方だ!せっかく人の温もりを感じて、喜んでいると言うのに、その手がコテコテの関西人の女の手だったなんて、興ざめだ。握って感動したのが、勘違いだったようなものだ。ぬか喜びで、損をした気分だ。台無しだ。

    キッ、とレジのお姉さんを睨みつけたが、スーパーの警備員がやってきて、取り押さえられ、俺は警察に突き出された。

    警官「お前、どうして女の手を握った。そして女の手を自分の顔に付けたんだ?」

    「人の温もりを、長らく味わっておらず、それを思い出したくて握りました。それがとても柔らかく、暖かく、もっとよく感じたくて、スリスリしました。」

    警官「レジの女の手をか? お前、その女を前から目を付けていて、計画的に手を握ったんじゃないか?計画的に女の手を頬に擦り付けたいんじゃないのか?」

    「それは違う。先にも言ったとおり人の温もりを知りたかったのだ。どうせなら異性の手を握りたかった。どうせ握るなら綺麗めのお姉さんの手を握りたかった。でも、実際に握るととても暖かくて、つい肌の感触を味わいたくスリスリしたのだ。それの何が悪い?手を握ることは犯罪か?スリスリすることは犯罪か?俺には何が悪いのか、サッパリと分からんよ。しかし、残念だったのは、あのいつも笑顔が綺麗なサキちゃんが、実はコテコテの関西人だったこと。それが残念だった。」

    警官「女の名前も知っている。それに計画的。『公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例』ならびに『ストーカー規制法』に抵触するから、お前逮捕な。なにが『人の温もり』だ、この変態野郎が!しばらく冷たい飯を食って、反省しろ!」

    俺は留置所とやらに入れられた。

    その夜、鉄格子から見える月は、とても綺麗だった。

    【投稿者: 1: 9: けにお21】

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    コメント一覧 

    1. 1.

      20: なかまくら

      最初の文章から、どんな名文が生まれるんだ!?
      という期待感からの、こてこてのギャグ! 大変面白かったです。
      最後の反省が微塵も見られないところもグッドです(笑


    2. 2.

      1: 9: けにお21

      読んで、コメントまでいただき、ありがとうございます!

      最近、レジで、お金の手渡さないですねー

      チャンスが無いです。

      世知辛い世の中になりました。。