ステージにイスが5つ密着して横に並べられている。
右端のイスにコートを着て帽子を目深にかぶった男が座っている。
設定としては、電車の中。やがてアナウンスが入る。
「秋葉原~、秋葉原~」
AとBの2人がイスの向かって左から乗り込んできて、Bが左端、AがBの右隣のイスに座る。
A「いやー、とうとう買っちゃったよ、Q-Shock」
B「さすが、アキバ、安かったよなー」
A「税込みでニッキュッパ」
B「298円とはなー」
A「……なんか、今頃、不安になってきた」
B「……なんか日本語たどたどしかったよな?」
A「見てみよう」
B「お、おう!」
A「ストップウォッチ機能とか試してみるか?」
B「あ、じゃあさ、ただ試しても面白くないから、俺が目をつぶって10秒経ったと思ったら、『ストップ』っ
て言うのやろう」
A「あ、ああ、そうしよう」
B「あ、足でリズム取るのアリな?」
A「OK。いくぞ! はい、スタート!」
Bは黙って足でリズムを取り始めるが、8つ足で「トンッ」とやったところで、ピタリと動きを止める。
A「おい、何、勝手にやめてんだよ!」
AはBの肩を揺すった。
A「あれっ? びくともしねぇ? それだけじゃなくて、めちゃくちゃ堅てえ!」
ここで、急に帽子男がしゃべり出す。
帽「9秒が急病なんです」
Aは帽子男の存在をほとんど忘れていたので、かなり驚いた。
A「な、なんなんですか? あんた」
帽「9秒が急病なんです」
A「だから、だじゃれ言ってる場合じゃないんですよ! 友達が動かなくなった上に堅くなっちゃって!」
帽「あなたの時計を見てご覧なさい」
A「はぁ? あれ? 8秒で止まってる。やっぱり偽物つかまされたのか?」
帽「違います。9秒が急病で入院してしまって居ないので、9秒になれないのです」
A「はぁ? さっきのだじゃれじゃないの?」
帽「本当です。私は時間管理局からあなたをスカウトに来ました。どうでしょう? 9秒が退院するまでの間、
代理の9秒をやっていただけませんでしょうか?」
A「えぇっ! 私が? 急な話ですね。私なんかに出来るんですか?」
帽「大丈夫! 我々がしっかりサポートします。それに時給は弾みますよ?」
A「え? 弾むって、どれくらい?」
帽「これくらいです」
帽子男はおもむろにポケットからスーパーボールを取り出すと床に思い切り叩きつけた。
2人はボールの行方を目で追った。
A「お断りさせていただきます」
帽「冗談です、冗談。時給1千万円でいかがでしょう?」
A「はぁ? 時給1千万円? それこそ冗談でしょう?」
帽「これが契約書です。これにサインすれば、時給1千万円はあなたのものです!」
帽子男は懐から3つに折りたたんだ契約書を取り出した。
Aはそれを奪うようにして手にすると、隅から隅まで読んだ。
A「ほ、本当だ!」
帽「それではサインを」
Aは早速サインをしようとするが、直前で思いとどまる。
A「俺、9秒になるんですよね? そしたら、ずーーーーーっと9秒で永遠に1時間経たないんじゃないかな?」
帽子男は後ろを向いて、
帽「チッ、もう少しで、代わりが見つかると思ったのに」
A「おい! お前、誰なんだよ?」
帽「俺か! 俺は10秒だよ! 代わりの9秒が見つからないと、9秒に格下げになっちまうんだよ!」
A「だったら、お前が9秒やれや!」
帽「いやぁ、俺、重病人なんです」
A「こんな元気な重病人が居るかぁ?」
A、帽子が飛ぶほど、帽子男の頭を張り倒す。
あとがき
すいません。小説じゃないです。コント台本です。