秋色のバス通り

  • 超短編 2,184文字
  • 恋愛
  • 2017年11月07日 02時台

  • 著者: k-pan
  • <冬>
     私は、私立中学校に通う中三の女の子。中学校入学と同時にこの街に引っ越してきました。私は毎朝自宅近くのバス停からバスに乗って通学していますが、桜並木が道路の両脇に連なっているこのバス通りが大好きなんです!その並木道のバス停で、大好きなアガサ・クリスティーを読みながらバスが来るのを待つのが毎日の日課です。
     寒い冬はあまり好きではないけれど、すっかり葉を落とし、春に芽吹くまで木枯らしに耐えているような姿の冬の桜の樹を見るのは、何だか勇気を貰っているようで好きなんです。
    私は中学を卒業しても、隣接する女子高に通うので、更に3年間そのバスに乗って通学する事になります。中学生活は割りと単調だけど友達もたくさん出来て、それなりに楽しかった。4月からの高校生活はどうなるんだろうなぁ......

    <春>
     この春から高校一年生になった僕は、真新しい制服に袖を通し、初めてのバス通学に毎日ウキウキていた。
    そして、道路を隔てた向こう側のバス停に、私立女子高の新一年生と思しき可愛い女の子がバスを待っているのに気付いてからは毎日のウキウキ度も倍増さ!その子もこの近辺に住んでいるはずなのに僕には見覚えの無い女の子だ。きっと中学校から私立に通っているんだろうなあ。彼女が着ている制服は、僕の中学校時代の同級生が通っている学校と同じ物なので、どこの高校かは知っているんだ。
    桜は満開に咲き、並木道はさながらピンクのトンネルの様だ。花になんて興味は無いけれど、こんなに見事に咲き誇る桜のトンネルを通る時は思わず見惚れてしまうね。
    僕は、勉強はあまり好きじゃないけれど、本を読む事が子供の頃から大好きなんだ。今は高校で出来た新しい友達に借りたコナン・ドイルのミステリー小説にハマっている。朝のバスの待ち時間にも本を開く毎日だけど、彼女の存在に気付いてからは、バス停での読書にあまり集中出来なくなっちゃった。
    本を読んでいる人を見かけると、その人が何を読んでいるのかが気になる僕。彼女もいつも何か読んでいるけど、どんな本を読んでいるのかな?

    <夏>
     あと数日で夏休みが始まるという頃、私は向かいのバス停にいつもひとりの男子高校生がいる事に気がつきました。たまたまクリスティーの本を家に忘れてしまって、ぼんやりと向かいを眺めていた時に彼の存在に気付いたのです。他県から引っ越して来た私はこの近辺の学校をほとんど知りません。彼の通っている高校はどこだろうなあ。背が高くて、詰め襟の学ランがとっても似合うチョッとカッコイイ彼。最近夏らしく髪を短く刈って、それもまた良く似合うんです。
    彼もいつも何か本を読んでいます。「クリスティーだといいのになあ」なんて思ったけど、そんな偶然はある筈ないか......
    それからは毎日、本を読むだけじゃなく、彼に会える密かな楽しみも増えました。彼は私に気づいているのかなぁ?向こうは全く意識をしていないかもしれないのに、勝手にそんな事を想う私です。
    そして、悲しい事にそのあとすぐに夏休みに入って、一ヶ月ほど彼に会えなくなりました……

    <秋>
     夏休みが終わって、二学期になりまたバス通学の日々が始まった。あの子は夏休み前より少し大人っぽくなった様で、チョッピリまぶしく見える。僕は髪を短く刈り、部活の水泳部で毎日泳いでいたので真っ黒に日焼けした。身長が少し伸びたようだ。
     秋はどこの学校も文化祭シーズンだ。僕は友達と一緒に、あの子の学校の文化祭に行ってみた。その女子高に通っている中学の同級生にも遊びに来いと誘われていたんだ。 
     女子高らしい華やかな催し物が多い中「ミステリー研究会」といった地味なブースを見つけた。その中にアガサ・クリスティーのコーナーが有り、彼女の生涯を年表にしたり、作品を紹介するパネルなどが壁に張られている。あまり人気が無い様で、受付の女の子も暇そうに文庫本を読みながらそこに座っていた。
     僕は入場者名簿に名前を書いて彼女に渡したんだけれど、よく見ると、その受け付けの女の子はバス停で見かけるあの子だった! 僕は恐る恐る声をかけようと思っていたんだけど「あ!バ、バス停のひと!こ、こんにちは。私、毎日あなたと反対側のバス停からバスに乗るんです。随分日焼けしてますね。短い髪も似合いますよ......」彼女の方が先に僕を見て、はにかみながらそう言ってくれた。
    「あ、ありがとう。僕のことに気付いていたの?僕は春から君に気づいていたよ。お互いにいつも本を読んでいるから、なかなか目が合わなかったね」
    「私、夏休みが始まる前くらいにやっとあなたに気づいたんです。鈍臭いですよね......ところで、いつも何を読んでるんですか?」
    「ドイル。コナン・ドイルさ。君はアガサ・クリスティーが好きだったのか……」
    「はい。私、ミステリーが大好きなんですけど、アガサ・クリスティーが一番好きです。コナン・ドイルも興味は有るんだけど、まだ読んだ事無いなあ……」
    「僕の本で良ければ、いつでも貸してあげるよ!だから、僕にもクリスティーを貸してくれるかな?」
    「は、はい!も、もちろん!」

     僕たちは、次の月曜日から30分早く家を出て、バスが来るまで近くの公園のベンチでお喋りデートをするようになった。
    桜並木の葉は秋色に色付き、少しづつ歩道に舞い始めて、僕が開いている本のページにもハラリと一枚落ちてきた。 fin

    【投稿者: k-pan】

    あとがき

    恋は秋色なんてね(^^)

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    コメント一覧 

    1. 1.

      参謀

      お互いに意識してるけど本を通じて徐々に距離が近づくのがなんかわくわくしました。


    2. 2.

      k-pan

      参謀さん
      遅ればせながら、コメントありがとうございます!
      恋のキッカケは色々。爽やかな恋愛小説を目指しております。


    3. 3.

      こんにちは。少女漫画みたいでどきどきしました。私は小さい町出身なので(知らない人もだいたいみんな知り合いの知り合いです)高校生の頃、こんな素敵な出会いとは無縁でした。。。!


    4. 4.

      20: なかまくら

      ニヤニヤしました。
      時間とともに、思いが募っていく。いいですねぇ


    5. 5.

      k-pan

      桜さん
      コメントありがとうございます!
      自分自身が男ばかりの高校に通っていたので、こんな出会いに憧れていました。

      なかまくらさん
      毎日ほんのわずかの愛おしい時間。そしてやがて訪れる偶然の出会い。
      ああ青春!