みっつの涙

  • 超短編 700文字
  • 同タイトル
  • 2017年10月28日 00時台

  • 著者: 1: 9: けにお21
  • みっつの時。

    僕はおかあさんとお父さんと手をつなぎ、ぶらぶらとぶら下がることが好きだった。

    右手はおかあさん。

    左手はお父さん。

    浮いては、沈み、浮いては、沈み、ぶらぶら揺られながら前に進むんだ。

    宙に浮いて進むので、空を飛んでいるようで楽しかった。

    でも、暫くすると、おかあさんは決まってこう言うんだ。

    「もう腕痛いわ。勘弁して(TT)」

    でも僕は、3人で手をつなぎ、一体化し一つの生きもののようになったこの時が、一番好きだった。

    おとうさんとお母さんがいるから、僕が存在している、と思えた。

    共同体であることが、妙に心地よく、楽しく、安心できた。

    怒るときは3人で怒り、泣くときは3人で泣き、笑うときは3人で笑えた。それがとても幸せな気持ちになれた。




    ある日、お父さんとおかあさんは大喧嘩をしたんだ。

    僕は、隠れて見ていたんだけど、とても怖かった。

    おかあさんは怖い顔で泣いていて、お父さんも怖い顔で泣いていた。

    僕も、悲しくなって泣いたよ。





    今よっつになった僕は、おかあさんと暮らしている。

    右手はおかあさん。

    左手のお父さんはいなくなった。

    なのでもう、僕はぶらぶらとぶら下がることができなくなったんだ。

    お父さんとお母さんが喧嘩した日のあと、おかあさんと僕は家を出て、お父さんと離れて暮らすことになったんだ。

    きっと、あの日流したお父さんとお母さんと僕のみっつの涙のせいで、一緒に居られなくなったんだろう。

    でも僕は、あの時、3人で一体化したときが、一番幸せだった。

    願わくばもう一度、僕は3人で1つになり、暮らしたい。



    右手はおかあさん。

    左手はお父さん。

    僕はおかあさんとお父さんと手をつなぎ、ぶらぶらとぶら下がることがとても好きなんだ。

    【投稿者: 1: 9: けにお21】

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    コメント一覧 

    1. 1.

      20: なかまくら

      純粋な想いは、核心をつくことがありますね。
      嫌味なく書ききっていて、読んでいる側も素直な気持ちになれました。
      ダブルミーミング、決まってますね!


    2. 2.

      1: 9: けにお21

      なかまくらさんへ

      ありがとう!
      時折、少年になって書きます。
      童心を忘れないようにしています。


    3. 3.

      1: 3: ヒヒヒ

      切ない。なかまくらさんと同じく、みっつのダブミーイングが印象的でした。


    4. 4.

      1: 9: けにお21

      ヒヒヒさん

      あざーす!

      頑張りました!!