勇者の営み

  • 超短編 1,377文字
  • 日常
  • 2017年10月27日 00時台

  • 著者: 1: 9: けにお21
  • 勇者が放った秘剣「六甲おろし」が、大魔王の喉をとらえた。

    大魔王の破れた喉から血が「ひゅー、ひゅー」と吹き出し、これが六甲山から打ち下ろす強風の音に似ていた。

    大魔王を倒した勇者は、意気揚々と、魔王城から町へと戻った。

    民A「うおおおおお、勇者様のお戻りだぞお! ってことは憎っき大魔王を倒したんだ! やったああー! 今夜は祝祭だああ」
    民B「勇者様ー、よくぞご無事でえええ。感謝いたします!昨日産まれた我が子の名前、勇者様のお名前を付けさせていただきます!」

    魔王城から勇者が帰ってきた凱旋初日はこうであった。

    ~5年後~

    民A「ノラクロから新しいヘートテックが出るらしいぞ」
    民B「まじか!今度のヘートテック温かいのか?」
    民A「ノラクロ史上、最高の温暖化の下着らしい」
    民B「それは買いだな!」
    民A「うむ、急げー」

    民は、世界を苦しめた大魔王のことも、それを退治した勇者のことも、喉元を過ぎていた。平和になていた。

    そして・・・
    勇者は、4畳半のぼろアパートでふて寝していた。
    勇者に、職はなかった。
    戦うことしか能がない勇者にとって、平和な世界は住みにくいだけであった。

    勇者「あああああ、焼き肉食いてええ!、寿司食いてええ!、金ねえええええ!」

    勇者は起き上がり、携帯のガラケー電話を取り出しボタンを押した。

    ぴぽぱっ!

    勇者「おい、大魔王元気しているか?」
    大魔王「おう、兄弟! おれは元気だ。どうしたんだ、いきなり電話してきて?」
    勇者「それがさあ、俺が、お前つまり大魔王を倒したばっかりに、世界が平和になってしまったのさ。戦うことしか能がない俺にとって、平和は生きにくいのだ。要するに誰からも相手されない俺、手に職がない俺、脳がない俺、稼ぎがない俺、困っている、食うに困っているのだ。間もなく餓死して死にそうなのだ!!」
    大魔王「ありゃま」
    勇者「そこでだ!! そろそろお前、蘇ってくれんか、暴れてくれんか、世間を騒がせてくれんか?得意のホラ、おめえの目から発射される破壊光線で、都庁あたりを真っ二つにしてくれんかのう?そうすると、世間は慌てふためき、勇者である俺を担ぐに決まっている。世の中が俺に助けを求めるに決まっている。世界が、勇者たる俺に寿司や焼き肉を食べさせてくれるだろう!」
    大魔王「親友の勇者の頼みとくれば聞くぜ!!でも一旦死んだはずの俺、どうやって出てくる?不自然に現れると疑われるのでは?」
    勇者「それなら、まず、角を2,3本増やせ、そして全身脱毛してツルツルになれ!見た目を変えろ。次に、隕石の中に隠れて、宇宙から落ちて登場する。どやこの案。名案やろ。前回はお前、確か地底から雄叫びをあげながら登場したよな?今回は空からだ。見た目も違うし、前回のお前とは誰からも気づかれまい。至極、自然や?」
    大魔王「ひひひ、お主、悪だ。そうとうの悪だのう。よし、そのかわりワシは人の生き血をたっぷり吸わせてもらうぜ!」
    勇者「OKOK! 許可する!たっぷり人の血吸っとくれ! 頃合いを見計らって、俺登場するから、それまでの間存分に人の血吸っとき! でも、俺が来てからは分かっているよな!俺が、秘剣六甲おろしをいつものように放つから、お前(大魔王)は首からひゅーひゅー血を流して大袈裟に倒れるんだぞ。そして消滅したように消える。うまく演技するんだ。手筈、分かってるよな?!」
    大魔王「言わずもがな!兄弟!」

    【投稿者: 1: 9: けにお21】

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    コメント一覧 

    1. 1.

      20: なかまくら

      勇者もそこまでいくなら、もう、悪事に染まってしまえばいいじゃないすか。
      ブラックですね^^!


    2. 2.

      1: 9: けにお21

      なかまくらさんへ

      ローテさんの作品に影響を受け、けにお風味の作品を作りました。

      そしたら、悪い勇者になっちゃいました!w


    3. 3.

      参謀

      勇者と魔王の結託それはだめでしょw


    4. 4.

      1: 9: けにお21

      参謀さんへ

      おちゃめな展開でしょw

      コメントあざーす、参謀さん!!