君が宇宙へ行く頃

  • 超短編 927文字
  • 同タイトル
  • 2017年09月16日 01時台

  • 著者: でんでろmk2
  • 「はっはっはっ、エヌ博士、では、お別れだ。残念だよ、何の成果も残せずに決裂することになるとはね」
    「最後まで気が合わんね、エム博士。成果とは、完成品だけを指すものではないのだよ。我々は、過程で多くの物を得た」
    「ふん、君の負け惜しみを聞くのも今日が最後だ」
    「私は負けてなどいない」
    「我々は負け犬だ。老いさらばえて、先も短い。しかし、いつか儂の子孫は宇宙に行くぞ。われわれが想像もし得ないような方法でな」
    「負け犬はお前だけだ。『いつか』だとか、『想像もし得ない』とか。私には、そのくらい分かるぞ」
    「もう、君の負け惜しみはたくさんだ。さらばだ」


     それから、遥かな時が流れ……。


    「すべてチェックOK。予定通りに出発です。博士」
    「エム・ジュニアと呼んでくれ。尊敬するエム博士の子孫であることを誇りとしていたいんだ」
    「分かりました、エム・ジュニア」
     世界初の軌道エレベーター。初めて乗る人間として、開発者のエム・ジュニアは自分以外の人間を認めなかった。そして、その壮大なわがままは通ったのだ。
    「エム・ジュニア、時間です」
     エム・ジュニアは高鳴る胸を抑えつつ、軌道エレベーターに乗り込んだ。
     暫しのインジケーターの明滅の後、軌道エレベーターは上昇を始めた。


     丁度その頃、軌道エレベーターを囲む3つの隣国の国境の地下で、3つの古めかしいが精確で緻密な歯車仕掛けの機械が動きだした。そして、原始的だが強力なロケット機関で3つの球形の機体が打ち出された。3つの機体は軌道エレベーターめがけて弧を描きながら集まっていく。
     3つの機体がある程度近づくと、それぞれの機体が1本の非常に細くて強靭な鋼線を打ち出し、それぞれ別の機体と繋がり、鋼線が三角形を描いた。
     3つの機体が繋がった瞬間から、3つの機体は軌道エレベーターを中心に高速に回転しながら距離を詰めだした。それと同時に周囲に何とも言えない不快な音が鳴り響いた。先ほど張られた鋼線が凄まじい勢いで振動し始めたのである。
     そして、3つの機体が、鋼線が、軌道エレベーターを捉えると、いとも易々と切断してしまった。


     この事故で、死亡者が1名出てしまった。
     いや、事故なのだろうか? 偶然なのだろうか?
     鋼線で首を切断されるなんて、まるで誰かが図ったようだ。

    【投稿者: でんでろmk2】

    あとがき

    後味良くないかな?

    Tweet・・・ツイッターに「読みました。」をする。

    コメント一覧 

    1. 1.

      1: 鉄工所

      …かに見えて
      落下傘で降下してきた。

      「こんな事もあろうかと聞いていた」

      なんて、続編のパターンもありますね。

      エヌ・エム氏の王道のパターンで無ければそれもありです!


    2. 2.

      1: 9: けにお21

      代を重ねてやっと完成させた軌道エレベーターに機嫌良く乗っているエム・ジュニア博士を鋼線で殺したのは、エヌ博士の子孫さんの仕業かな?

      もしそうだとすると、ご先祖どうしの決裂が、末代にまで響いたことになる。

      恐ろしい。

      複雑なはずの状態や動きがとてもイメージしやすかったです。上手に書かれているなあ、と思いました。


    3. 3.

      20: なかまくら

      先祖同士のちょっとライバルみたいな関係が、すごく大きなひずみになって後世に伝わる・・・
      そんなおそろしい様子を見た気がします。