「はっはっはっ、エヌ博士、では、お別れだ。残念だよ、何の成果も残せずに決裂することになるとはね」
「最後まで気が合わんね、エム博士。成果とは、完成品だけを指すものではないのだよ。我々は、過程で多くの物を得た」
「ふん、君の負け惜しみを聞くのも今日が最後だ」
「私は負けてなどいない」
「我々は負け犬だ。老いさらばえて、先も短い。しかし、いつか儂の子孫は宇宙に行くぞ。われわれが想像もし得ないような方法でな」
「負け犬はお前だけだ。『いつか』だとか、『想像もし得ない』とか。私には、そのくらい分かるぞ」
「もう、君の負け惜しみはたくさんだ。さらばだ」
それから、遥かな時が流れ……。
「すべてチェックOK。予定通りに出発です。博士」
「エム・ジュニアと呼んでくれ。尊敬するエム博士の子孫であることを誇りとしていたいんだ」
「分かりました、エム・ジュニア」
世界初の軌道エレベーター。初めて乗る人間として、開発者のエム・ジュニアは自分以外の人間を認めなかった。そして、その壮大なわがままは通ったのだ。
「エム・ジュニア、時間です」
エム・ジュニアは高鳴る胸を抑えつつ、軌道エレベーターに乗り込んだ。
暫しのインジケーターの明滅の後、軌道エレベーターは上昇を始めた。
丁度その頃、軌道エレベーターを囲む3つの隣国の国境の地下で、3つの古めかしいが精確で緻密な歯車仕掛けの機械が動きだした。そして、原始的だが強力なロケット機関で3つの球形の機体が打ち出された。3つの機体は軌道エレベーターめがけて弧を描きながら集まっていく。
3つの機体がある程度近づくと、それぞれの機体が1本の非常に細くて強靭な鋼線を打ち出し、それぞれ別の機体と繋がり、鋼線が三角形を描いた。
3つの機体が繋がった瞬間から、3つの機体は軌道エレベーターを中心に高速に回転しながら距離を詰めだした。それと同時に周囲に何とも言えない不快な音が鳴り響いた。先ほど張られた鋼線が凄まじい勢いで振動し始めたのである。
そして、3つの機体が、鋼線が、軌道エレベーターを捉えると、いとも易々と切断してしまった。
この事故で、死亡者が1名出てしまった。
いや、事故なのだろうか? 偶然なのだろうか?
鋼線で首を切断されるなんて、まるで誰かが図ったようだ。
あとがき
後味良くないかな?
コメント一覧
…かに見えて
落下傘で降下してきた。
「こんな事もあろうかと聞いていた」
なんて、続編のパターンもありますね。
エヌ・エム氏の王道のパターンで無ければそれもありです!
代を重ねてやっと完成させた軌道エレベーターに機嫌良く乗っているエム・ジュニア博士を鋼線で殺したのは、エヌ博士の子孫さんの仕業かな?
もしそうだとすると、ご先祖どうしの決裂が、末代にまで響いたことになる。
恐ろしい。
複雑なはずの状態や動きがとてもイメージしやすかったです。上手に書かれているなあ、と思いました。
先祖同士のちょっとライバルみたいな関係が、すごく大きなひずみになって後世に伝わる・・・
そんなおそろしい様子を見た気がします。