「あたし別に好きじゃないけど。」
「なんで好きだったのか分かんない。」
そうやって嘘を吐いたのは寒い寒い冬の日だった気がする。
私自身もう疲れていたし、なんだか嫌だったんだ。
その子を好きになったのは小学3年の春だった。
理由を問われれば「なんとなく」だったけど、時が経つにつれてそのなんとなくの「好き」は大きくなった。
廊下で目が合えば幸せ。
近くの席に座ると幸せ。
朝の挨拶が返されて幸せ。
小さな事だったけど、まだ9歳の私には大事な事だった。
それでも、人をからかうのが趣味のような人はいつだっていて、幸せは崩された。
ある日彼から貰った手紙があった。
内容は、「もっと一緒に話したい。」
みたいな内容で、紙はノートの切れ端だった。
それでも、幼い私には飛び跳ねるほど嬉しくて、誰にも見つからないように、そっと筆箱の中に隠した。
けどそれはすぐに見つかってしまった。
昼休みの中頃、筆箱を机の上に置いたままトイレに行った時だった。
帰って来た時には、私の筆箱は同じクラスの女子が持っていて、彼からの手紙を、数人でケラケラ笑いながら読んでいた。
そして私に気づいたら、今度は大声で手紙を読み上げてきた。
もう流石に我慢ならなかった。
(後から聞いたが、何故私の筆箱を開けたかというと、ただ鉛筆を借りようとしたらしい。無断で借りられたのにも少し腹はたった。)
もうそこからは掴みかかるように取っ組み合いになった。私は当時体格が他の子よりも小さい事もあり、すぐに弾かれた。
何よりも悲しかった。
幸せは長くなかった。
彼女の言った「ただふざけただけでしょ?」の言葉が許せなかった。
私が彼の事が好きだということを広めた彼女が許せなかった。
だけど私には何も言えなかった。
もう怖かった。
どうしてからかうのか、いけない事ではないだろう?
今なら言えた。
あの時はただただ、その一件で、誰かを好きだというのが怖かった。
それからは早かった。
「好きなんでしょ?」と聞かれるたびに、
「もう嫌いだ。」
「なんで好きだったのか分かんない。」
それだけを繰り返した。
それ以来、私には好きな人がいない。
それから私は中学校に上がったが、彼は私立の中学校受験で合格し、今では可愛い彼女が出来たらしい。
私は今でも「好き」を引きずってる。
「大嫌い」で「幸せ」だった、
あの頃の精一杯の「好き」を。
もう泥にまみれた「好き」を。
あとがき
初めまして、宵と申します。
実体験を小説のつもりで書き進めましたが、何というかこれは....みたいな仕上がりになってしまいました。
精進していきたいです。
最後に、彼が幸せな毎日を送っていますように。
コメント一覧
好き、をからかってはいけませんよね。
おかげで、主人公と彼は、幸せなひと時を失った。
好きって他人に、からかわれやすいもの。なので、他人にバレないようにしなくてはならない
引きずるものでもある。しかも、タチが悪くナカナカ吹っ切れない。
そうでした、そうでした。
読んでて、好きの感覚を思い出しましたよー。
次の好きは、うまくやって下さい!
初めまして
小さな胸が大きく張り裂けそうな想い
凄く素直な表現で共感します。
この頃に恋心は、その後の恋にまして小さいけれど深いですね。
私も引き出しにしまった物をまた出そうかと思います。
子どもの頃は、ちょっとした弱みを握られるだけでも、クラスの中で居心地が悪くなっちゃう世界に住んでいますよね。
「好きで何が悪い」って、言えたら良かったのでしょうけど、ふたりとも、まだ子どもだったんですね。