かき氷に見立てた西瓜の上に
争う兜虫と鍬形虫
今にも投げ飛ばさんとしている兜虫
だが、このトッピングはクワガタが上等だ!
その羽の見事さは、とてもナスの皮とは思えない
素揚げして紫が出る前に色止めするところは正に職人
タンタンタンとリズミカルな柳刃包丁のさばきが見事なのは次期板長の長谷川氏だ
0.2mmに剥かれた大根の桂剥きは、まるで
透き通ったガラスの器のようだ
純銅性の卸金でおろした大根はまるで氷のようで、純米の焼酎を霧吹きで吹いて西瓜との味覚の差を擦り合わせる。
西瓜の種も毛ぬきで抜いて素揚げして元に戻す
そう、全てが食べれるように造られている。
これが、老舗料亭【桜花】の日常である。
…
一部始終を見ていた黒沢は、後から来た課長を見かけると
「お疲れ様でした、今日も暑かったスネw」とまるでタメ口で話す。
懐から日本一の扇子を取り出して扇ぐ課長
「暑さは製造業には大事なんだよ黒沢君」
「え〜現場は真面無理っす」
「これしきの暑さ熱意が足らんな、ねっ若頭!」
鱧の骨切りに備えて、砥石に刃を当ててた長谷川は額汗を拭き困りつつも頷いた。
今日の接客は金型屋のトップス工業(株)
冷間鍛造の金型の擦り合わせで来社した。
ニューモデルがダイキャストでなく、プレスの型抜きでより造形美と生産性を上げて、差別化を図る。
メイドインジャパンの再生の為に、今回は金型は最重要課題となっている。
一般的に考えると、協力会社から下請けになる会社だから、接客を受けるのはこちらだが…
職人の多い製造業はそうでもない。
一般論程意味はなく
良い仕事には相手の懐や体調も気付かわねばならない、それがプロの仕事だからだ。
…
一通りビールがまわると
あの夜勤の時御社の設備から外してくれたドイツのモーターね未だ現役ですよ〜
そう言えば、その頃削れなかった材料がミヤマさで貸して貰った超硬バイトで面粗度が出ましてねほんと、紙一重でしたよ
ワッハッハ
業界用語が飛び交う男の世界を頷きながら聞いている様で、先ほどのトッピングのツマをつまんで刺身醤油につける。
木桶の二段仕込みの醤油は丸大豆の豊かなカヲリをまとい口当たりの良い甘さと辛味の効いた桂と相まって大豆のコクが薄らぎ酢橘と消える
「えっ!スダチ?」
「気付いたか?黒沢君、流石調理大学出身だな」
「ええ…課長は見てたんですか?」
「いや、酢橘を切る音だよ…ねえトップス社長」
『音はね、材料との対話。今、賄いで作っているのはシシトウの天ぷら、燕三条の南部鉄器でこれくらいの大きさで湯温が183℃だ。あと五分かな?木暮課長』
「そうですね、レモンを切ってるから4分45秒かな?黒沢君」
「えぇ…ぇ」
ベイビーGの秒針を見る
精巧社のスピードマスターを視る
デイトーナの手巻きを診る
各々自分の席に丁度配膳される。
15秒の差は席順だ。
「ビールストッカー2℃下げて…ちょっと冷やし過ぎだよ女将さん」
煩さと細かさが中間管理職
新任として社会の凄さに鳥肌が立った様だが
お造りの頂点に立ったクワガタを食べたのは…間違え無く彼女だ
兄貴4人の末っ子だけある。
『将来が楽しみですな〜木暮課長』
「兜に投げ飛ばされ無けれよいのですが…」
…
翌朝早くから、現場でウッドモデルにペーパーをかけていた。
「大先輩に負けてらんないですぅ」
食いしばった唇と頬伝う汗が、天窓の朝陽と煌めく
マニファクチャラーズの強者を他所に
いずれ彼女が立つ立ち位置は
きっと素敵なトッピング相まうであろう
何故なら製造業こそが、この国の根幹であるからだ!
エピローグ
4年後の12月23日
ワールド インセクトモデル グランプリ
寒波の中だが
微細プレスに冷間鍛造に深絞りのプレス、熱変化がない精密冷間メタルモデルは、世界の頂点を極めた。
Win 深山プレス Co Ltd
熱い泪が止まらなかった。
メタルだからね@鉄工所
あとがき
アプローチを変えて食べ物はよそうと思いつつ…まあ夏と言う事で
暑中お見舞い申しあげます!
コメント一覧
兜虫と鍬形虫という字のかっこよさですよ。
そしてメイドインジャパニーズのかっこよさですよ。
刺身とツマとビールって最高ですよね。
描写が旨いのでのみに行きたくなりました。
カタカナだと、どうもカッコ良さに欠けるので…漢字!
素性は良いのでも少しカッコ良くならないかな…ジャパン!
もう数年呑みに行ってないので昔語りで恐縮です。
オー、しゃれてますね。
クワガタを食べ物じゃない形で持ってくるとは・・・(ん
何回か読んでも
>素敵なトッピング相まうであろう
の意味がつかみきれなくて悔しい~~という感じです。
そうそう食べもでない感じ…(あれっ?
彼女はプロダクトマネージャーになったんです
謂わば製造のトップ(イング)に相応しいの意とも言います〜
因みに「擦り合わせ」は調整(日程含む)の意味であります。
素直に、ストレートに料理にするなんて!
僕もストレートに作ることを少しだけ考えたが、普通に料理にすると、その後の展開が作りにくくなる。で、容易に手を出せなかったのだ。
そこをさすがは鉄工所さん。かっこいい料亭の料理を使うことで、作品に面白みやとゴウジャス感を出している。
しかし、この手法は料理の知識をあらかじめ持っているか、調査しないと作れないと思う。
もし、後者なら大変な苦労だ。
さて、後半、マニアックっぽい製造業のネタが散りばめられている。
こいつも、あらかじめ知識を持っているか、もしくは調査しないと書けない。
これは、鉄工所さんだけに前者な気がするw
また、今回のは鉄工所さんの、いつも調子ではなく、普通っぽい作風の小説に感じました。
本作からは、「こう言ったのも書けるんだぞ!」と言っている気がして、鉄工所さんの引き出しの多さを感じました。
ピカソが、普通な絵を描く感じでしょうか。
沢蟹の唐揚げを如何に自然に魅せるかが料理人
そんなコンセプトからイメージを…
トッピングだけに余り捻らずシンプルに書きました
イヤイヤ料亭なんてなんて数回で、イメージですよ殆どがw
まあ金属系のネタは普通にかけますが、マニアック過ぎて誰もわからない、その辺が昆虫と重なるのですねww
あんまり普通に書くとネタバレするので書いてないのは内緒です!
よ、用語が…たくさん…!
鉄工所さんの引き出しの多さと反比例するように感想として出てくる言葉が「かっこいい」のひと言に集約されていきました。
鍬形、兜とあえて漢字表記なのもお洒落です。
やっぱりね、昆虫はマニアックでないと!
昆虫の「カッコよさ」って得体の知れないところもありますね、その為の引き出し総動員!
登場人物が大人なので漢字表記にしてみました。
軽い語り口調が、すっと頭に入ってくるのですごく読みやすかったです。同じタイトルで個性がすごくでますよね。同タイトルってたのしい。
リズムには気をつけていますが、今回特に口語調
やはり夏休みの宿題の様な感じで読みやすしたのは内緒です。
去年の祭り辺りから盛り上がっていますね、同タイトル
皆んなで成長出来る感じが素敵ですね!