夢老い人

  • 超短編 479文字
  • 同タイトル
  • 2017年05月26日 03時台

  • 著者: ことは


  • 夢を見ていた。永い永い夢を。

    足がかゆくて目が覚めた。
    けれども掻くことができず、何故かゆいのかそればかり考える。
    白い天井。視界にはそれしかない。帰らなくちゃ、どこへ?とにかく帰らなくちゃ。
    身体を起こそうとしても力が入らない。

    「おばあちゃん」

    白い天井の端っこから、ぬっと顔が現れた。
    焦点が合わない。 ぼやけてしまって、声だけじゃ誰だかわからない。


    「だれだい?」

    「わたしだよ、あかりだよ」

    「あかりちゃん」

    はて、わしに孫はいたかの。

    もうなんにもわからない。

    「おばあちゃん、覚えてる?」

    「覚えてるよ、あかりちゃん」

    ごめんよ。覚えてない。けれどなんだか、懐かしい。
    ゆっくりとしか喋られない。おそらく孫であろうこの娘の顔もわからない。

    「嬉しい。おばあちゃんは、いま何を考えていたの?」

    「足がかゆい。どうしてかゆいんじゃろ」

    「ふふ」

    それから娘は濡れたタオルを絞って脚を拭いてくれた。
    冷たかったが、痒みはなくなった。
    ありがとう、ええと、誰だっけ、名前は………。

    「おばあちゃん、また来るね。おやすみ」

    「おやすみ」



    今もまだ永い永い夢の途中。なんだか良い夢だった気がする。しあわせだ。





    【投稿者: ことは】

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    コメント一覧 

    1. 1.

      1: 3: ヒヒヒ

      こういう日がいつか来るんだろうなぁ、と思ってしみじみ読みました。
      孫(と思われる子)を思い出せないのは悲しいですけれど
      その子の態度を見るに、きっと良い関係だったんだろうと感じられて
      もし死後にも残しうるものがあるとしたら、こういう、人との関係なのかな、と思いました。


    2. 2.

      1: 9: けにお21

      夢の中でおばあちゃんに会う。つまり、夢老い人ってことですね。

      なるほど、同タイトル「夢老い人」をこの角度で料理しましたか。

      僕には、この角度は見えてなかったで、新鮮でした。

      ほとんどの人が、この同タイトルを、「夢を追いかけ老いた人」ととらえ料理したはず。

      さて、もしかすると、カンペーちゃんの「かいーの」からヒントを得たのかな?・・もう古いか

      それか、霊感が高いことはさんのことだから単に昨晩見た夢を書いただけなのかも?


    3. 3.

      3: 茶屋

      なにもわからなくても、ただこの人が優しくて、そしてあかりちゃんが優しいのがわかります。
      きっとここは幸せな夢の中ですね。


    4. 4.

      ことは

      ひひひさんへ
      ご感想ありがとうございます。死後に残し得るものは人との関係、ですか。その通りですね。家族との関係性、大事にしていきたいです。

      けにおさんへ
      ご感想ありがとうございます。お恥ずかしながら、こちらは経験談です。うちの祖母は認知症でもうなにもわかりません。認知症の人は何を考えて過ごしているのだろう?という疑問に、祖母は「足がかゆい、なんでかゆいのか考えていた」と答えました。

      茶屋さんへ
      ご感想ありがとうございます。人は、ボケちゃったあとに本性が現れるのだと思います。昔の嫌なことも全部忘れて、幸せな世界で生きているなら、忘れられてしまった寂しさも少し和らぐと思うのです。