123番ゲート(上)

  • 超短編 1,159文字
  • シリーズ
  • 2017年04月16日 00時台

  • 著者: 1: 9: けにお21
  • 機内のアナウンスはもうすぐ関空に着陸することを告げた
    着陸後は、きっとあの奇妙なゲートから関空内部へと出ることになるのであろう
    今回の旅は、一途に想い続けてきた聡にとっては予想外の結果となったが、不思議と落胆や淳子への怒りはなく、むしろホッと安堵していた
    標高を下げた飛行機の機内の窓から見えるこの世の空は青く澄み渡っており、青の中で力強く差し込む太陽光に、聡は思わず目を細めた


    10年前、聡との結婚式を3ヶ月後に控えた淳子は、聞くもの、見るもの、全てから祝福されているようで、まさに人生の絶頂期にいた
    いつもならコンビニのプリンを3つほどは食べないと収まらないぐらいの嫌味な上司への怒りも、この時ばかりは笑ってやり過ごすことができた
    ある朝、自宅を出た淳子は会社へと向かうため梅田行きの電車に乗った
    乗車した電車はJR尼崎駅の手前でガガガと突然と大きな音をたて、急カーブを曲がりきれず脱線した
    一部の車両は、線路横のマンションに激突した
    淳子はその車両に乗っており、叩きつけられた淳子は即死であった
    その時、淳子の鞄にはハネムーン予定地のオーストラリアのパンフレットや新居を飾るカーテンのパンフレッドが入っており、遺体となった淳子の手にはその鞄がしっかりと握られていた

    一方、フィアンセの淳子の訃報を聞いた聡は、悲しみに打ちひしがれた
    淳子の葬式では、聡は人目をはばからず大泣きした


    それから10年、聡は仕事に一心に打ち込んだ
    淳子への想いを払拭させようと我武者羅に働いたのだった
    その結果、会社では将来の幹部候補生として期待されるほどにまでになった
    しかし、聡にとってはそんなことはどうでも良かった
    大金を得ようと、名声を得ようと、一切の喜びも価値もなかった
    聡が望むものは、淳子の笑顔であり、純子と歩む人生だけであり、日々の生活は、虚しさを紛らわすだけのものであった

    そんなある日、聡は上司から勧められ、今年の盆休みに旅行に行くことにした
    何でも、旅行すると気持ちが晴れるとのこと
    確かに、聡はこの10年、旅行はおろかろくに遊んでもおらず、休日も部屋でひっそりと過ごす日が多かった
    上司の助言に従って行ってみようと思った
    マンションに帰った聡は、だだっ広い部屋の中でパソコンの前に座り、インターネットで行き先を探していると、いつものように淳子を想い出した
    無性に悲しくなった
    あの事故さえなければ、淳子と結婚していれば、一緒に旅行に行けたものを、いったい一人旅などしてどうなるものか
    聡は、旅行先を検討する作業すら馬鹿らしく感じた
    そして、あの世にいるだろう淳子に無性に会いたくなった
    そんな物思いに耽っていると、ついパソコンに「旅行 あの世」と打ち込み、ネット検索をかけてしまった
    すると、画面には「関空発あの世行」との案内サイトが表示された
    聡はその画面に釘付けとなった


    【投稿者: 1: 9: けにお21】

    Tweet・・・ツイッターに「読みました。」をする。