冬の終わりを待ちわびて

  • 超短編 478文字
  • 祭り
  • 2022年01月24日 23時台

  • 著者:1: 3: ヒヒヒ
  •  信号待ちの間、見知らぬ人が咳をした。
     私は足早にその場を去った。

     同僚と会うことも、家族と顔を合わせることすら稀になった。
     病気を恐れて、家にこもって、実在しない人の声ばかり聴いている。

     北の国では戦闘機が飛び交っている。
     南の島では火山が吹いた。

     東京の、8畳の、こたつも猫もない部屋で独り。
     悪いニュースばかりが聞こえてくる。

     ふと、思う。この冬は、終わるだろうか。

     そう思ったときに、昔書いた短編小説のことを思い出した。
     「意識の研究」という題名で、冬の終わりを待ちかねる人の話だった。

     春を待ちながら、数百年続く冬を耐える人の話は
     救いのない暗いものであったけれども、感想をくれた人たちがいた。

     世界観が良かったと、褒めてくれた。私のアイデアを認めてくれた。
     お題であった「クワガタ」の使い方が良いと言われたのを、覚えている。

     春が来るかは、わからない。
     世の中が暖かくなっていくとしても、そこに自分がいるとは限らない。

     歴史的な感染症が、人類の息の根を止めようとしている時代だ。

     それでも。もし夏を迎えられたなら、そのときには、また、
     クワガタを探しに行こう。私にとってのクワガタを。

    【投稿者:1: 3: ヒヒヒ】

    あとがき

    某クワガタ好きの友人に贈ります。
    題名は変えましたが、小説は実在するものです。
    「クワガタ」はお題ではなかったって?そんなはずは……!

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    コメント一覧 

    1. 1.

      20: なかまくら

      暗い時代ですが、希望を持って生きたいな、と思いますね。最後が前向きなのがいいです。


    2. 2.

      1: 9: けにお21

      一つ前の作品に繋いだ作品。
      良いですねー。
      しかし、信じられないよ。
      そんな馬鹿な、と言いたい。

      春が来て、夏を迎えたい。
      みんな一緒にね!


    3. 3.

      3: 茶屋

      ありがとうございます。また、会いましょう。