そんな思い出に浸ったのも、とある動画を観たからであった。
コロナで大学が長期休暇に入り、週三で働いていたバイトも週一のペースとなり、休みの日は家でゴロゴロと次に投稿するYouTubeのネタを、YouTubeから探しているときだった。
流行りの曲をカヴァーしてYouTubeに投稿していたため、今のYouTubeのトレンドやSNSでのトレンドを掴むことは何よりも重要で、登録者数や再生数を増やすことにも繋がった。
そのために、色々な人の弾き語りなどを聴いていた。そしてその中に例の動画があった。
基本動画は選ばず、YouTubeで[弾き語り]と検索して、トップから再生し、そこから自動再生をオンにし、それらをBGMに家事をするのが日課だった。
鼻歌交じりで昼食の用意していると、聴いたことのない歌が流れて来た。
歌詞は社会風刺的な歌詞であったが、その中にも独り善がりの愛が溢れていて、メロディーはバラード調であり、料理支度をしていた私の目は、包丁から動画に移っていた。
動画のタイトルは【オリジナルソング リアリティー】と付けられていた。
そして最初は分からなかったが、なぜか中学時代の文化祭が蘇った。
最初は途中から見始めたため、もう一度最初からじっくりと見て、やっと蘇った原因が分かった。
ギターだった。
文化祭したときに、松井君が弾いていたギターと同じだった。
懐かしいなあ、と思いながら他にどんな動画上がっているのか見に行っても、この曲しか上がってなかったが、説明にTwitterのURLが記載されていたため、リンク先に飛んだ。
アカウント名はチャンネル名と一緒で “廻り道” 。
最近のツイートは、コロナのせいでバイトの休みが多くなったことを嘆いていて、誰も彼も悩むポイントは一緒だなと思いながらメディアを開くと、写真や動画が結構上がっていた。
オリジナル曲は今回が初めてで、私と同じようにカヴァー曲ばかりではあったが、一番最初にカヴァーとして出した曲で確信めいた。
なぜなら、松井君が文化祭のときに弾きたいといった、シンガーソングライターの曲だった。
弾き語りを初めてする人は必ずといっていいほど、自分の大好きなシンガーを弾き語る。
自分が納得するまで撮り直し、もしそれが不評でも、好きなシンガーからは守られているような気がするからだ。
好きなものを好きだと大声で言いたいからこそ、大好きなシンガーの大好きな曲を最初に唄うのだ。
それから昼食などそっちのけで、文化祭のこと、そして全力で汗水を垂らしながら唄っていた松井君に対しての淡い気持ちを思い出しながら、もう一度【リアリティー】を聴きながら、自然と五線譜ノートをテーブルに出していた。
勝手にではあるが、廻り道さんのオリジナルソングにピアノを付けた動画をYouTubeに投稿し『あなたの歌詞が心に刺さりました。私も趣味でピアノを弾いているので、良かったら聴いてみて下さい』とツイートで報告した。
それからDMでやり取りが続き、なんの予定もなかったが、しっかりと松井君なのか確かめるために、緊急事態宣言が解除されたら遊びに行くという名目で『会いませんか?』と誘い、廻り道さんも≪ぜひお会いしましょう≫とOKしてくれた。
そして当日。
緊張しながら、東口の地上に出るための階段を上り、待ち合わせのライオン像に目を向けると、私が事前にDMに送ったファッションで気付いたのだろう、手を振る男性がいた。
歩みを寄せるに連れて、髪型とか身長や体形は少し変わっていてマスクもしていたが、やはり廻り道さんは松井君であった。確信めいたものが確信に変わった瞬間だった。
「初めまして」といわれた瞬間、そりゃあ覚えていないよね、と残念に思ったが、含み笑いをし「実は初めましてじゃないんですよ」と丸くする松井君の目を見つめた。
あとがき
前回の続きです。
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コメント一覧
いよいよ再会ですね! さて、どうなるか・・・。