《若葉視点》
涼介君から、私達の過去を聞きたがっていた。
本当は思い出したくない過去。
…だけど、涼介君になら言ってもいいかな。いつか話そうと思ってたし…。
「…私達がまだ小さかった頃、有名な名家に住んでたの。
そこで私とお姉ちゃんは、お父さんから刀を習った。
私のお父さんは、子供の頃からずっと古武道を習ってて…、それを見つけたお姉ちゃんは、「自分も刀を振る舞いたい」って言い出したの。」
「…じゃあ、姉貴のあの3つの刀は全部…?」
「そう。全部お父さんから伝授された。
斬裂刀も、鬼薙刀も、私の神楽刀も…全部。」
あの頃は、お父さんから厳しく育てられてきた。
私とお姉ちゃんが刀を始めたきっかけは、お父さんが刀を振る舞う姿を見て、「刀を持つ者は正義」と言われた。
その「正義」を、私達は持ちたかった。
お姉ちゃんは私と違って、振る舞いが良かった。
だから同時に、3つの刀を扱っていた。
「斬裂刀」と「鬼薙刀」。
その2種類の3つの刀は、全てお父さんから教わったものだ。
「…ただその時…、私達の家が襲撃されたの。」
「…その襲撃者が…、大屋と黒沼か?」
「…うん。あの時はお父さんが立ち向かったのだけれど…。
…圧倒的に力は、大屋の方が上だった。」
「……。」
あの頃のお父さんは、確かにとても刀に関しては力強い方だった。
大屋達に襲撃されたあの日、お父さんは1人で大屋達に立ち向かった。
しかし、何の抵抗もなく、惨殺された。それうえお母さんも、何もできないまま殺されてしまった。
私達は…、ただ隠れて親が殺されるのを見ているだけだった。
「それで姉貴とお前は…、そこで離れ離れになったって事か?」
「…うん。」
そう。親が殺されてからの翌日。
お姉ちゃんが…、家から出ようとした時だった。
~8年前~
『お姉ちゃん、どこに行くの?』
『…どこでもいいでしょ。』
『まさか、お父さんやお母さんが殺されたから、ここを出ていくって言うの?』
『……。』
『…そうなんでしょ?ねえ?』
『……。』
『黙ってないで答えてよ!!』
何も言わず出ていこうとしたお姉ちゃんに、私は怒鳴りつけた。
お姉ちゃんは私の方へ振り向いたが、表情一つ変えなかった。
『…お姉ちゃんは今、1人でいたいの。
何も若葉が割り込む事じゃない。』
『でも私…!お姉ちゃんと離れたくない!
お姉ちゃんが遠くに行っちゃったら…!私はどうしたらいいの!?』
『……。』
『お姉ちゃん…!私…、寂しいよ…!ずっと一緒にいたいよ…!!』
『……。』
お姉ちゃんはぼろぼろと涙を流す私を、ただ見つめるだけだった。
それからお姉ちゃんは、口を開く。
『…ごめんね、若葉…。』
『…!』
『お姉ちゃんはもう…、自分で決めたの。
いっぺんに親を亡くして、この先どう生きていくか考えながら出るから。』
『でも…!』
『だから若葉…、あなたはいい子だから、ここにいて。』
『嫌だよ!だったら私も一緒に行く!だから…!』
『…残念だけど、それはできない。
これはお姉ちゃんが決めた事だから。』
『……。』
『…ごめんね。そして…、
さよなら、若葉…。』
『お姉ちゃん!!!』
そう告げると、お姉ちゃんは振り返る事はなかった。
どんなに声を上げても、お姉ちゃんは振り向いてくれなかった。
ただそれが…、寂しく思えた。
大好きなお姉ちゃんは妹の私を手放し、自分の生きていく道を探しに、どこまでも…、歩み続けた。
~それから1年後~
来る日も来る日も…、お姉ちゃんは帰ってこなかった。
そこで私は考えた。
もしかしたら、お姉ちゃんはどこかで何かあったんじゃないかと。
そう思った私は、すぐに神楽刀を持ち、外に出た。
着いた先は、今住んでいる街・歌舞伎町。
夕暮れの時だった。
お姉ちゃんはここにいるんじゃないかと、私は思ってた。
親が亡くなる前に外出する時、よくここに来ていた。
だから馴染みの街にお姉ちゃんがいるんじゃないかと思っていた。
そんな中、裏路地で何か騒ぎがあった。
柄の悪そうな男達が集って、何かしているのを見た。
凝視してみると、餓死寸前の猫に暴力を与えていた。
それを見た私は、すぐに猫の所へ駆け寄り、立ち塞がった。
「そんなのただの玩具だろ」と嘲笑われながらも、私は神楽刀を握る。
私は我慢の限界になり斬りかかるが、私の方が動作は遅かった。
難なく避けられ、まずはお腹に一発。
そして顔、身体…至る所に傷を作られてしまった。
「このガキ、駆け寄って堂々と邪魔しやがって。
所詮玩具構えたガキなんぞ、俺らが負けると思ってんのか?あ?」
「うぅっ……。」
私は頬を掴まれ、目の前の男を見つめるだけだった。
確かに今思えば、小さい子供が大の大人に勝てる訳なんてどこにもない。
駆け寄って助けても、子供の私は所詮殴られ損になるだけだった。
「おい、何か言ってみろよ。」
「もう口利けないんじゃね?」
「よし、じゃあトドメ刺すか。」
この時私は、お姉ちゃんを見つけられずに殺されるのかと思ってた。
でも、その時だった。
「…おい。」
「あ?」
バキッ!
「うぐっ!?」
私を掴まえていた男が、誰かに殴られたのが見えた。
「な、何だてめえは!?」
「…大の大人が子供に手を出すとはみっともねえな。」
「この野郎、シメてやろうか!?」
別の男が、助けてくれた男の人の胸倉を掴んだ。
しかしそれを払い除け、顔に一発殴った。
残りの男も、その男の人は簡単に殴り倒した。
「…大丈夫か?」
「は、はい…、ありがとうございます…。」
そっと差し伸べられた手を取り、立ち上がる。
「こんな時間に子供がここで何をしているんだ?親はどうした?」
「……。」
男の人の質問に答えようとするが、私は言葉が出なかった。
何せ、親の事を聞いてきたのだから…。
「…そうか。」
しかし何も言わなくても、その人はわかっていた。
「この子供の親は、あの世に行ってしまったのだ」と。
私はそう思えた。
「お前、俺の所に来ないか?」
「…え?」
「こんな所で子供が1人歩き回っていたら危ない。俺はそんなのは放っておけないからな…。」
「でも…、いいんですか?」
「俺は構わない。親の代わりに、俺が面倒見てやる。」
「……。」
強面だが、優しいな瞳で私にそう言った。
それから私は、名前や歌舞伎町で何をしていたのかをその人に教え、7年間世話をかけられた。
私は名前も知らないその人を、「おじさん」と呼んでいた。
そして私が今の年齢…15歳になった頃だった。
「…もう行くのか?」
「うん。もう大丈夫だよ。おじさん。」
「お前は確か…、長い間ここにいる姉を探していたんだよな?
…早く見つかるといいな。」
「そうだね。」
私はお辞儀をし、こう言った。
「おじさん、今までお世話になりました。」
そう告げて、私はおじさんの元を離れた。
大丈夫、1人でも。
1人でも、お姉ちゃんを探せる。
だって、こんなに成長したんだもん。
当時の私は、そう思った。