声の処方箋 ~中編~

  • 超短編 2,060文字
  • シリーズ
  • 2020年02月16日 02時台

  • 著者: 3: 寄り道
  •  交換日記は暫し続いた。
     しかし8月の夏休みを境に、なぜか止まってしまう。
     そしてついに、学校が始まっても宮﨑めぐみは、学校に来なくなった。
     不登校になる心当たりはあった。夏休みに入る前あたりから、コミュニケーションを図ろうと声をかけていた幾人のクラスメイトは宮﨑めぐみと関わらなくなり、そのせいで休み時間は1人淋しそうに本を読んでいる時間が多くなっていたような気がしていた。
     その環境が居づらかったのだろう。
     誠一自身、理科や体育などの教室を移動する際に、積極的に話しかけてはいたものの、休み時間は仲のいい友達と過ごしたりして、最初の頃に比べるとやはり、皆と同じようにコミュニケーション怠っていた。
     そして宮﨑めぐみがいないまま9月が始まり、それと同じくして10月に行う文化祭の準備も始まった。
     文化祭といっても、メインは各クラスで競い合う合唱コンクールで、屋台もあるがおまけにしかすぎない、催し物だった。
     誠一のクラスも曲を決める中、1人の女子が手を挙げる。
     周りのクラスメイトよりも積極的に宮﨑めぐみに話しかけていた人だった。
    「曲、作りませんか」その問いかけにクラスが静まり返る。
     彼女曰く、宮﨑めぐみのことを思って提案したらしい。
     宮﨑めぐみが不登校になって、クラスの幾人かは心配していた。女子の中には、男子が何かしたんじゃないの? と疑う人もいて、クラス内が少しぎくしゃくしていたときに、この案が出された。
     誠一も交換日記が途絶えてから、家が隣なのに何もしていなかった。
     曲なんて作ったことがある人なんていなく、反対の声も聞こえた。
     もう文化祭まで1ヶ月くらいしかないのに、メロディーも歌詞もとなると、到底間に合うはずがない。
     合唱コンクールでは、各学年ずつ課題曲が決まっており、さらに各クラスずつ、好きな曲、つまり自由曲を歌うこととなっており、つまり当日は2曲歌うことになるのだが、既存の曲に収まるのが普通だった。というか、自分たちの手で曲を作りそれを発表するなんて前代未聞だった。だから先生も反対するだろうとクラス中思っていたが、先生が「面白いな!」とその女子の案に賛同し「文化祭実行委員会に掛け合ってみるよ」と付け加えた。
     もし仮に許可が下りたとし、それから歌詞やメロディーが出来たとしても、あと1ヶ月しかないのに皆で歌い上げるまで行くのか、という不安が皆の心にあった。
     しかし、彼女の提案に賛成する人も現れる。
     次の日の朝の会。先生の話によると、やはり合唱コンクールという企画での発表は既存の曲が好ましいということになったらしい。しかし、合唱コンクールとしてではなく、文化祭のクラスの出し物としてならいい、と許可が下りた。
     その日の放課後、誠一を含めた賛成派が集まり話し合う。
     歌詞なんか作成したことがないから、まずはどんな歌詞にするか皆で意見を出し合い、黒板に書いて行く。
     やはり、宮﨑めぐみに向けての歌だから「声が出せなくても、気持ちが通じているなら、それでいい」「声が出なくても、皆は君を裏切らない」「声が」「声に」「声を」と、声に関するメッセージが多く上がった。
     メロディーも暗い曲調ではなく、明るい元気が出るようなメロディー。
     楽器を弾ける人同士集まり話し合ったり、休み時間、放課後、休日は誰かの家に集まり練習したりと、毎日毎日、作詞作曲に挑んだ。
     誠一は家が隣同士だから、当日ちゃんと来るようにと、招待状を作った。
     文化祭当日。誠一は、事前に宮﨑めぐみと母親に文化祭のプログラムと招待状を渡すが、返事をもらわぬまま、この日を迎えてしまう。
     まず初めに、合唱コンクールで舞台に上がったが、緊張と歌うことに集中していたため、会場を見渡せなく、宮﨑めぐみの存在に気づかいないまま、クラスの出し物の準備が始まってしまう。
     クラスの出し物を発表するため、袖裏で待機していると、1人の男子が、小さな声で皆を呼ぶ。
     どうやら、会場に宮﨑めぐみがいたらしい。
     その瞬間、皆で円陣を組み、士気を鼓舞させ、舞台に上がる。
     次の日。クラスに行くと、宮﨑めぐみの机の周りが賑わっていた。やはり、賑わいの中心には、宮﨑めぐみの姿があり、誠一も嬉しくなって、輪の中に入った。
     机の上に開かれたノートがあり、そこには「ありがとう」と書かれていた。
     久々のクラスの全員が揃っての学校を過ごし、少しだけ気分を高揚させたまま学校を終え、帰宅し、夕食までベッドに横たわり転寝しそうになっていると、インターホンが鳴る。
     母が自室にいる誠一を呼び「夕食の準備で手が離せないから出てくれる?」と頼み、誠一は仕方なくドアを開ける。
     そこには、宮﨑めぐみが立っていた。
     宮﨑めぐみから無言のまま交換日記を渡され、再びやり取りを行うようになる。
     11月になると皆の進路が決まり始め、誠一も宮﨑めぐみと出会ってから、勉強にも身が入るようになり、少しだけ偏差値の高い高校を受験することを決めた。
     そして12月。
     3年生にとっては受験前の総仕上げである冬休みに入り、勉強に身を投じる中、交換日記で目を丸くする報せを告げられる。

    【投稿者: 3: 寄り道】

    あとがき

    前回の続きです。次回でラストです。
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