その後

  • 超短編 2,038文字
  • 祭り

  • 著者: 20: なかまくら
  • 「花道というのは、その人の功績を称えたり、祝福するために、用意するものなんだ。」
    ある冬のことだった。小さな村。村から役人(元号と呼ばれる)が出ることに決まり、盛大に送り出すことになった。モモタは村の子供たちに、説明をしながら花向けの儀式作業を進めた。道に沿ってシャベルで土をひっくり返す。プルプルとした虫たちが顔をのぞかせる。その後、ふかふかになった土に小さく穴をあけると、花の苗を植えた。目線を上げると、村を出ていくケヤキが苗を持って忙しく動き回っていた。準備をしている村の人に声をかけては、にこりと笑う。モモタはそれを眺めていた。


    彼女は塾でモモタの一つ下の学生だった。よく遊び、よく笑う学生だった。モモタははじめ、気にもかけなかった。いつか、この寂れた村を出ようと付き合いもほどほどに、勉強に励んでいた。彼が彼女を意識せざる負えなくなったのは、彼女が塾長の推薦で飛び級して同じ学年になったからだ。飛び級なんてものがあることをモモタは知らなかったし、遊ぶことにも夢中な堕落を内包する彼女に、一意専心に励む自分が劣るとは思えなかったし、努力は必ず報われると信じて励み続けた。
    同じ教室で学ぶうち、彼女が才気にあふれ、愛されており、それを自分は多くは持たないこともよく分かった。けれども、先輩としてのささやかならぬ意地があった。

    あるとき、花売りを名乗る男が、村に立ち寄った。モモタは、薬草学の知識を期待して、1晩の逡巡ののち、宿に借りている家を思い切って訪ねた。
    「その、」
    と、モモタは口の中で、朝から練習していた言葉を言ってしまい、扉の前で呆然と立ち尽くした。
    「なにかな?」
    部屋には、いくつかの植物が飾られており、寂れた村に似つかわしくない風景だとモモタは思った。
    「わぁ、きれーい!!」
    そのとき、後ろから花の香が風に乗って過ぎた。ケヤキだった。彼女は花で飾られた部屋の中へ入っていく。
    「ほんとに綺麗ですね。私、お花を見るの大好きなんです! 色々教えてもらってもいいですか?」
    「こんにちは、花が好きな人に悪い人はいない、というのが私の持論だ。そっちの君も・・・お友達かい?」
    モモタは、どう答えたらよいのか迷った。しかし、ケヤキはにこりと笑い、
    「ええ、おなじ塾で勉強している友人です」
    そう答えて、モモタを招くような視線を送った。モモタはそれで初めて、敷居をまたいで、中に入ることができたのだった。その時間は楽しかった。花売りの男は知らない子供であるモモタたちにも親切だった。行商の中で出会った様々な人、文化、それを話してくれた。詩人としても食べていけそうな語りだった。
    「おじさんは、これからどこへいくの?」
    「首都に行こうと思っている。」
    「首都はどんなところですか?」
    モモタは聞いた。
    「首長がな、花に溢れた都市にしたいっていうんだよ。問題もたくさんある。だが、夢のある人は良い。君たちもそんな大人になるといい」
    花売りの男は、そんな話をしてくれた。

    あくる日、モモタは荷車の手入れをしている男を見かけた。
    「いつまでいるんですか?」
    モモタはうまい言葉を知らなかった。
    「花の種をね、仕入れていたんだ。」
    そう言って見せてくれた。形の違う様々な種類の種が袋の中に詰まっていた。
    「こんなにたくさん、どうするんですか?」
    聞くと、
    「海外のお客さんが、首都に訪ねてくるんだ。それに向けて、海岸から首都まで花の道を作る。それが今の私の仕事なんだ。」
    水につけ、硬く捻りあげた布で荷車を拭いていく。荷車は土に汚れ、ところどころが欠けたりへこんだりしていた。それは、村の荷車と変わらない、けれども特別な車に見えた。首都への道を知っている車。
    「モモタくんも首都へ行きたいんだったね」
    「はい。この何もない街から出て、才能のある人たちと競い合って生きていきたいんです。」
    モモタはそう答えた。
    「なるほどね・・・」
    花売りの男は、少し考えてこう言った。
    「私がこうやって仕事に出かけるとき、皆がたくさんの種を持たせてくれる。私が首都に戻って、次の春には、花が咲くだろうね。外国のお客さんが、花の道を通ってこの村にも立ち寄るだろう。人も一緒さ。君は私のことをいずれ忘れる・・・。」
    「そんなことはないです。」
    モモタは否定する。
    「ありがとう。そうしたら、いつか私は君の助けになれるかもしれない。君の友人や家族だってそうさ。君の心が蒔いてきた種が花を咲かせるんだ。でも、君の生き方ひとつで、君が去ったその地は荒れ野になるのだろうね。覚えておくといい。」
    花売りの男はその次の日、村を後にした。


    ひとり、新しい役人を追加で募集すると御触れがあったとき、学長にはモモタが呼ばれた。塾の成績のトップはモモタだった。学長は「ケヤキを推薦をしようと思う。」と言った。そして、モモタは「それがいいでしょう。」と答えたのだった。

    「モモタくん。」
    「おめでとう。俺もいずれ追いつくから。」
    そう言って祝福の言葉と花束を贈った。
    道には花が咲き、首都へと続いていた。

    【投稿者: 20: なかまくら】

    一覧に戻る

    コメント一覧 

    1. 1.

      howame

      この民話的なかんじはとりあえず茶屋さんでしょうか^^
      とんがり帽子です。


    2. 2.

      けにお21

      うーん
      まず、人物名をカタカナにしていたので、ヒヒヒさんを疑ったが、確かにとんがりさんの言うとおり、民話的なので、茶屋さんかな?
      ヒヒヒさんなら、民話でなく、もっとSF風味に仕上げてくるはずだから。

      そして、ついでにとんがりさんもヒヒヒさんと予想します。

      冷蔵庫に冷やしたパンはまずい、でした。


    3. 3.

      けにお21

      う、よく見ると、とんがりさんのコメントに、絵文字のニコニコマークが入っている。

      ヒヒヒさんは、ニコニコ絵文字使っていなかった気がします。

      とんがりさんは、なかまくらさんだー!

      冷蔵庫でした。


    4. 4.

      なかまくら

      アノカネカラスです。コミュ力のあるケヤキさんと、コミュ力がないけど頭のいいモモタくん。モモタ君は少し成長できたんですね。二人がいつか村を良い方向に変えていく未来がくるのでしょうね。花売りの男は食っていけるのか、心配な仕事ですね(笑 作者は、ヒヒヒさんに一票入れておきます!


    5. 5.

      茶屋

      コーヒー探偵なのです。相棒はチュー太郎です。
      さって、感想です。ものがたりとしてはまっすぐで、でも脇道には花が植えられているような。
      そんな見通しのよい物語で好きです。
      一途な思いを感じがんばれってなりました。

      予想は今参加を表明されているかたの中なら、茶屋さんかなぁ、でもでも怪しいです。
      偽装のにおいがします。なかまくらさん?


    6. 6.

      howame

      ヒヒヒさんのような気もしてきたし、もしかしたらミチャ寺さんのような気がしてきました。トンガリ帽子。


    7. 7.

      なかまくら

      というわけで、これは私の作でした。
      誰かと過ごすということは、誰かに種をまくことなのかな、
      ・・・なんて最近考えていたことを書いてみました。
      ちょっと違う作風で混乱させられた・・・と思ったのですが、今年も逃げ切り失敗。
      ヒヒヒさん手ごわし。